ニューズレター No.39

(2004.9.17発行)

目次

戦後60年を狙う「戦争映画」の登場

山田和夫(映画評論家/ネット代表委員)

「来年の日本映画は戦争映画がブーム?」

 『Weekly ぴあ』別冊(2004年10月10日号)は、「一冊まるごと映画だけ」と題し、今秋から来春にかけての内外映画をまとめて紹介。そのなかで「来年の日本映画は戦争映画がブーム?」とある。「戦争映画」とくくれるかどうか疑問作もあるが、軍と戦争がらみの企画が並ぶ。

 来春公開で製作が進むのは「ローレライ」(東宝系)。福井晴敏のベストセラー小説『終戦のローレライ』を映画化、アニメと特撮の監督樋口真嗣がはじめて実写の長編劇映画を演出する潜水艦映画。役所広司、妻夫木聡主演で大がかりな実物大の潜水艦セットをつくり、太平洋戦争末期、秘密兵器で第三の原爆阻止に動く男たちを描くが、もっぱら緻密な潜水艦メカが売り物になりそう。「戦争」をどうとらえるか、のコンセプトはまだわからない。

シナリオ改訂して防衛庁の協力も

 同じ福井晴敏原作で映画化企画は「ローレライ」より一歩先んじていたのが『亡国のイージス』。海上自衛隊のイージス艦長が、防衛庁秘密機関に息子を自殺に追い込まれ、北朝鮮工作員と組んで核弾頭つきミサイルで日本政府を脅迫するのが原作だから、不可欠の防衛庁協力が得られなかったが、シナリオの大幅改訂でこんどは陸海空三自衛隊の全面協力となった。

 どこをどう変えたか?まだわからないが、少なくとも自衛隊が「全面協力」できる内容になったことはたしか。

 真田広之、中井貴一、寺尾聰、佐藤浩市の四男優のそろいぶみでマスコミをあおり、日本ヘラルド、松竹の共同製作で来年夏公開を目ざす。

 監督は阪本順治。阪本監督は「KT」で金大中拉致事件に動いた陸上自衛隊二部別班(諜報担当)の闇をあばき、「この世の外へ〜クラブ進駐軍〜」では、朝鮮戦争にイラク戦争をダブルイメージした今日的力作をものしたのに、このような「亡国のイージス」映画化で、何を語ろうとするのか? 危惧されるばかりだ。

 さらに東映系で来秋公開を目ざすのが「男たちの大和」。辺見じゅんのノンフィクションを佐藤純弥が映画化、原作者の弟である角川春樹が久しぶりに映画製作に乗り出す。原作は戦艦大和の造艦プロセスから沖縄特攻での悲惨な末路までを生存者の証言でつづる。つくりようでは、生命と財産最大の浪費となった大和の運命を通じて、太平洋戦争の真実に迫り得る材料だが、生存者の語る凄惨な「末路」、その地獄絵図を真正面から見つめない限り、海底に沈んだ数千の生命を“英霊”として美化する「鎮魂曲」となりかねない。

 佐藤純弥監督は「陸軍残虐物語」という強烈な反軍国主義映画でデビューした実績があり、最近『公評』誌(2004年9月号)では日本国憲法擁護の論陣(「『東亜細亜三国演義』序説・外伝」)を展開している。ぜひその志を無にしないよう祈りたい。

危険な意図明白な石原慎太郎の特攻映画

 上記三作品に比べて、当初から「戦争」賛美のコンセプトを明白にしたのが、石原慎太郎シナリオの特攻映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」である。石原は『特攻と日本人──ある見事な青春群像』と題した談話を『文藝春秋』誌(2004年9月号)に掲載、全編、自作シナリオのことを語った。

 それによると、内容は降旗康男監督の「ホタル」と同じ材料を、特攻で散った青春の賛歌として逆立ちさせたもの。「私はこの映画を反戦映画にするつもりも戦争賛美にするつもりもない」と言うけれど、肉親や恋人を守るために死んだ特攻隊員のことを純粋なものとして美化する限り、彼らの悲劇を再生産する映画にしかならない。特攻の生き残りである筆者には、胸の煮えくり返る思いがする、おそるべき映画である。

 監督は石原原作の『秘祭』を映画化した新城卓。「東映配給、来年公開予定」と明記されている。もっとも警戒を要する「戦争映画」である。

2005年を平和の節目の年に

 上記一連の「戦争映画」に明らかな、来年2005年、アジア・太平洋戦争終結から戦後60年、広島・長崎への原爆投下による被爆60年という節目を意識したものである。

 また2007年の憲法改悪を目ざす改憲勢力の策動が、大きくスピードを早める「節目」ともなりかねない。これら「戦争映画」が間違っても、改憲の目ざす「戦争する国」日本への暴走をあと押しするものであって欲しくない。

 その成り行きを注視しつつ、必要な批判活動を用意するとともに、本当に「節目」の年を平和への年とするような映画の製作と上映に全力を注ぎたい。

いよいよ「映画人九条の会」発足へ

 憲法改悪の動きが加速しています。

 改憲を進める勢力の狙いは、憲法第9条を変え、日本を「戦争できる国」にすることにあると言われています。戦争放棄を謳った日本国憲法は、世界に誇るべき平和憲法です。憲法第9条こそ平和の礎であり、絶対に守るべきものです。

 平和でなければ、映画の発展はありません。戦前・戦中のように映画が戦争に利用されるようなことは、二度とあってはなりません。 こうした思いから、私たち映画の自由と真実ネットや、映演総連、日本映画復興会議などが集まり、今年4月に「平和憲法を守る映画人会議(仮称)準備会」を結成しましたが、6月10日には井上ひさしさん、大江健三郎さんなどの知識人9名の方々が「九条の会」を結成され、大きな反響を呼びました。

 「平和憲法を守る映画人会議(仮称)準備会」としても、「九条の会・アピール」に大いに賛同するとともに、「映画人九条の会」を結成し、平和憲法擁護を広く映画人、映画愛好者に訴えていくことにしました。

 現在、十数名の著名な映画人の方々に、「映画人九条の会」の結成呼びかけ人になっていただくよう、依頼中です。

 「映画人九条の会」は、「九条の会・アピール」を広く映画人、映画愛好者に訴え、賛同を集めます。

 「映画人九条の会」は、日本国憲法第9条を守るという、この一点ですべての映画人、映画愛好者に参加と共同をお願いします。

 また「映画人九条の会」は、憲法改悪阻止に向けたイベントを企画し、映画人、映画愛好家に憲法第9条を守る運動を広げていきます。

 映画人のこうした活動は、憲法改悪の動きに対して大きなインパクトになるはずです。結成呼びかけ人が揃い次第、10月にはいっせいに映画人・映画愛好者に賛同と参加を呼びかけます。そのときは皆さん、ぜひご協力ください。

映画人九条の会・結成の呼びかけ(案)

 日本国憲法第9条を改め、日本を「戦争のできる国」に変えようとする策動が強まっている折柄、去る6月10日、日本を代表する9人の知性(井上ひさし、梅原 猛、大江健三郎、奥平康弘、小田 実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子)が「九条の会」をつくり、9条改憲に断固ノーの姿勢を示し、広く全国民に賛同と連帯と共同を呼びかけました。

 私たち平和を愛する日本の映画人、映画愛好者は、「九条の会」の高く掲げた理念と呼びかけに心から賛同し、「映画人九条の会」を結成することにしました。

 私たち「映画人九条の会」は「九条の会」と連帯し、「九条の会・アピール」を広く映画人、映画愛好者に訴え、賛同を集めます。

 「映画人九条の会」は、社会的な見方、政治や宗教についての見解、あるいは文化・芸術についての価値観など、相違点と多様性を超えて、日本国憲法第9条を守るという、この一点ですべての映画人、映画愛好者に参加と共同をお願いします。

 また「映画人九条の会」は、憲法改悪阻止に向けてさまざまな行動を企画し、映画人、映画愛好家に憲法第9条を守る運動を広げていきます。

 映画を愛し、平和を愛するすべての映画人、映画愛好者の皆さん、ぜひ「映画人九条の会」にご参加ください。

2004年  月  日

映画人九条の会・結成呼びかけ人

「日本映画がんばれ!2004秋の中津川は映画三昧」 まもなく第3回中津川映画祭

──10月15日(金)、16日(土)、17日(日)──

 「日本映画がんばれ!」をテーマにした「中津川映画祭シネマジャンボリー」も今年で第3回になりますが、まもなく開催されます。メイン映画祭は10月15日(金)〜17日(日)、クロージング映画祭が11月3日(水)です。

 今年の上映作品は、「羅生門」「地獄門」「異母兄弟」「裸の島」「火垂るの墓」「千と千尋の神隠し」「父と暮らせば」「蕨野行」「ドラッグストアガール」「この世の外へ─クラブ進駐軍」「東京原発」「クイール」「死に花」「精霊流し」「壬生義士伝」など。クロージング映画祭では「草の乱」も上映されます。

 ゲストも、映画監督の恩地日出夫さん、山川元さん、田中光敏さん、本木克英さん、高畑勲さん、俳優の内田朝陽さん、清水美那さんなど多彩です。16日(土)には「世界の中の日本映画」と題した国際シンポジウムも開かれます。

 詳しくは「中津川映画祭実行委員会事務局」におたずねください。

中津川映画祭実行委員会事務局
TEL: 0573-62-0480 FAX: 0573-62-0481
mail: n-cinema-j@vee-com.ne.jp
http://www.vee-com.ne.jp/~n-cinema-j/

【情報コーナー】

映画支援の来年度文化庁概算要求は、25億5800万円。「映画製作重点支援」が14作品への「作品支援」に!

 映画支援に向けた文化庁の平成17年度概算要求が明らかになりました。「日本映画・映像』振興プランの推進」の総額は25億5800万円で、前年とあまり変わりありません。

 内訳は、「魅力ある日本映画・映像の創造」が14億3100万円(「14作品への製作支援」7億6500万円、「新人映画製作支援=新設」1億900万円、「地域における映画製作支援」2億7300万円など)、「日本映画・映像の流通の促進」が5億4100万円、「映画・映像人材の育成と普及等」が1億3400万円、「日本映画フィルム保存・継承」が4億5200万円となっています。私たちが強く批判してきた7団体だけへの「映画製作重点支援」が、14作品への「作品支援」に変わっています。これは私たちの運動の成果です。

文化庁専門家検討会が「フィルムセンター」の独立を提言

フィルムセンターは「国立美術館・東京国立近代美術館」の一部門ですが、今年8月10日の文化庁交渉で芸術文化課の係長は、「平成13年に独立行政法人化された国立美術館・東京国立近代美術館は、来年が中期目標(5年)の見直し期です。政府は、独立行政法人の見直しについて、廃止も含めたゼロベースの見直しをするとしています」と語り、我が国の唯一の映画機関であるフィルムセンターが危機であることを示唆していました。

 最近の新聞報道によると、「文化庁の専門家検討会は9月9日、現在東京国立近代美術館の一部門となっている『フィルムセンター』を早期に独立させ、映画フィルムの保存や普及・上映活動などを一層充実させるべきだとする審議結果をまとめた」と書かれていました。「同美術館などを運営する独立行政法人国立美術館の中期目標との整合性も図りながら、できるだけ早い時期に独立させる」という審議結果のようです。注目しましょう。

映画「草の乱」、上映始まる!

 全国映画ファンの期待を集めていた神山征二郎監督作品「草の乱」の上映が、9月4日から有楽町スバル座で始まりました。スバル座でのロードショー終了後、10月から全国各地で上映運動が展開されます。詳しくは「草の乱」公式ホームページhttp://www.kusanoran.com/か、映画「草の乱」製作委員会048-822-7428、または映画「草の乱」東京事務所03-3505-1874にお問い合わせください。

東京国際映画祭も間近!

 今年で17回目を迎える東京国際映画祭は10月23日から31日まで、六本木ヒルズと渋谷Bunkamuraをメイン会場に開催されます。上映作品は、グランプリを競うコンペティション部門では15本、アジア映画にスポットを当てた「アジアの風」部門は30本以上を上映。特別招待作品は23本で、開幕を飾るオープニング作品に山田洋次監督の「隠し剣 鬼の爪」、オープニング・ナイト作品には宮崎駿監督の「ハウルの動く城」が決定。クロージング作品にはスティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の「ターミナル」が選ばれています。

編集後記

 労働組合の最大ナショナルセンター「連合」の笹森会長が、憲法九条の改悪容認発言をしました。労働組合までもが改憲勢力に加わろうというのでしょうか。秋なのに、いやな気分です。

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