2016年4月14日
厚生労働大臣
塩崎 恭久 様
映画演劇労働組合連合会(略称・映演労連)
中央執行委員長 金丸 研治

要請書

 私たち映画演劇労働組合連合会(映演労連)は2016年春闘にあたり、大幅賃上げの実施、実効ある長時間労働の規制、偽装委託の是正と全ての労働者に労災保険を適用させる立法措置、派遣法をはじめとする雇用制度の規制強化といった内容で、以下の通り要請いたします。
 各項目について貴省のご見解や方針、取り組みなどをお聞きしたく、近日中に懇談の場を設けていただくよう申し入れます。

  1. 大幅賃上げと下請け業者への還元に関する要請
     1月の全国消費者物価指数は横ばい、実質GDPは2015年10〜12月で-0.3%と低調に推移しています。1月の実質賃金こそ3ヶ月ぶりに0.4%プラスに転じたものの、政府が目指すデフレ脱却とはほど遠い現実です。しかし、一方で大企業の内部留保は300兆円を超えています。この滞留する巨額の資金に対しては株主配当や設備投資への期待が高まっていますが、むしろ労働の対価や取引する下請け中小業者への還元こそ、景気回復と地域活性の両面で直接的な効果を生むと考えています。
     貴省におかれましては、巨額の内部留保を有する一部大企業に対して、大幅賃上げと下請け業者への労働条件向上に資する積極的な還元に関する施策を講じられますよう要請します。
  2.  最低賃金の大幅見直しに関する要請
     映演労連では16春闘で映演各社に対して企業内最低賃金1,300円/時を要求しています。しかし、実態調査では800円台が21%、900円台が46.5%と、時間給労働者の半数以上が各地域の最低賃金に接近している状況で、映画館や演劇座館の深刻な人手不足にも繋がっています。他方、総務省が発表する家計調査や、全労連等が調査する生計費調査では、地域間の別なく月額支出20万円(25歳単身)前後とされていることから、現状の地域最賃とのかい離は歴然です。この矛盾した状況の打破には全国一律で時給1,000円を上回る抜本的な改善が必要です。併せて、最賃を引き上げるための中小企業支援(税制優遇、社会保険料負担の補助ほか)についても、同時に施策が講じられるよう要請します。
  3.  長時間労働の削減に関する要請
     映画演劇産業ではかねてより長時間過密労働が常態化しており、年間の総実労働時間を1800時間に抑える施策が望まれるところです。しかし、多くの事業所では三六協定に特別条項を盛り込むことで表面的な問題のみ回避し、長時間労働の実態に目を瞑る手続きだけが横行しています。
     特別条項の導入に際しては、少なくとも適用範囲と適用期間をより厳密化し、上限規制を組み込むこと、労働者代表選定の手続きの厳格化(改正派遣法との関連含む)、従業員個々の労働時間に関する労使の情報共有、特別な事情に関する労使の事前協議など労使自治が果たされる環境整備を要請します。
     なお、労基署の振替休日に対する指導(月内に振休取れない場合は原則代休買上げ)が、結果として当該労働者の休暇不足と経営側の負担増という結果を招いています。これについて、貴省の見解を求めます。
  4. 偽装請負の解決と労災に関する要請
    (1)本年3月、東映アメーションでは40年続いた委託契約の実態を改善し、200名近い「業務委託契約」者に対して、正式に契約社員として雇用契約を交わすことになりました。映画・演劇・アニメ産業に蔓延る偽装委託の現状を打ち破る画期的な出来事です。
     しかし、過去には雇用保険の被保険者確認請求での却下(2011年)など、契約の形式だけを捉えて不利益な判断が下されてきた経緯を忘れることはできません。今なお、多くの偽装委託で働く労働者が労基法の適用外に据え置かれ、無権利な状態にあることは事実です。貴省におかれましては、偽装委託の実態を踏まえた各窓口判断の改善を促すとともに、悪質な偽装委託の摘発と是正指導、労働基準法適用に向けた指導を引き続き強く要請いたします。
    (2)同様に、映演産業では労災すら適用されない芸能実演家・フリースタッフが多く存在しています。「契約の形式にかかわらず、就労の実態が労働者に当たると判断された場合には労災が給付される」とのことですが、現実には使用者側(製作者や所属する芸能プロダクションなど)は、問題意識はあっても労働者性を認めるまでに至っていません。このため、労災申請に際しては使用者の協力が得られないだけでなく、申請する行為が被災災認定された事例を可能な範囲で開示するなどし、その啓蒙に一層ご努力頂けるよう要請します。
     その上で、ILO198号勧告を踏まえ「純然たる事業主以外は労働者とみなす」立場での労働者性に関する立法措置を講じられるよう要請します。
  5. 雇用分野における規制改革に関する要請
    (1)改正派遣法では均衡待遇が盛り込まれています。しかし、派遣労働の実態は時間給が専らであり、大型連休や年末年始など労働日の変動によって大きくその収入が左右されるなど、およそ派遣先労働者との均衡が図られているとは言えません。また、契約期間も月単位と短いケースが一般的であり、多くの派遣労働者は待遇改善等を求めると次回契約更新に不利になると考え、相談すらできない状況に喘いでいます。こうした実態を改善するためにも労働組合(または過半数代表者)が窓口となって、派遣の実態に関する情報を収集し、派遣元と派遣先の両者に対して団体交渉を行うことが重要だと考えます。現在想定されている期間制限に関する意見聴取時の資料提供に留まず、派遣労働者の労働条件向上に資する情報収集が可能となるよう、派遣元・派遣先への指導を要請致します。
    (2)私たちは労働法制のさらなる規制緩和に反対します。高度プロフェッショナル制度新設や裁量労働制の対象拡大など「残業代ゼロ」や「過労死促進法」と批判を浴びる政策を撤回するよう要請します。併せて、検討中とされる「解雇の金銭解決制度」についても、従来の労使関係を決定的に悪化させる方針だと考えています。貴省におかれましては、労働基準法第1条(労働条件は人たるに値する生活を営むためのもの)の精神を堅持する立場で、規制の緩和ではなく、規制の順守こそが当たり前の環境整備に努めて下さい。
以上
連絡先
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
 映画演劇労働組合連合会(映演労連)
電話=03-5689-3970 FAX=03-5689-9585