2014年2月20日
厚生労働大臣
田村 憲久 様
映画演劇労働組合連合会(略称・映演労連)
中央執行委員長 金丸 研治

要請書

 私たち映画演劇労働組合連合会(映演労連)は2014年春闘にあたり、大幅賃上げの実施、実効ある長時間労働の規制、ブラック企業の一掃、偽装請負の是正と全ての労働者に労災保険を適用させる立法措置、派遣法をはじめとする雇用制度の規制強化といった内容で、以下の通り要請いたします。
 各項目について貴省のご見解や方針、取り組みなどをお聞きしたく、3月中に懇談の場を設けていただくよう申し入れます。

  1. 大幅賃上げと非正規雇用政策の見直しに関する要請
     いわゆる「アベノミクス」による金融緩和や公共事業投資により輸出産業や建設関係など一部の大企業経営は好調と伝えられていますが、内需を中心とする中小企業への波及は未だに実感されません。真の景気回復のためには内需の拡大こそ欠かせないと考えますが、15年におよぶデフレの最大要因でもある賃金抑制と雇用規制緩和が企業経営によって見直される兆しは見えません。ワーキングプアが増大しているこの時期に、消費税増税を契機とした生活必需品の値上がりがあれば、事態は一気にインフレ化することも懸念されています。
     こうした情勢に対して、政府がベースアップにつながる賃上げを各経済団体に要請していることは承知しますが、貴省としましても、大幅賃金の引き上げとともに低賃金に据え置かれる非正規雇用の拡大に歯止めを掛ける雇用政策への転換を呼び掛けて頂くよう強く要請いたします。
  2.  長時間労働の削減に関する要請
     映画演劇産業ではかねてより長時間過密労働が常態化しており、年間の総実労働時間を1800時間に抑える施策が望まれるところです。しかし、多くの事業所では三六協定に特別条項を盛り込むことで表面的な問題のみ回避し、長時間労働の実態に目を瞑る手続きだけが横行しています。特別条項の導入に際しては、少なくとも適用範囲と適用期間をより厳密化した上で、上限規制を組み込んだ内容に改められる必要があります。併せて、三六協定そのものの形骸化を防ぐため、労働者代表選定の手続きの厳格化、従業員個々の労働時間に関する労使の情報共有など労使自治が果たされる環境整備も必要です。
     貴省におかれましては、長時間労働の解消に向けた実効ある労働時間規制に向けた施策を打ち出すよう要請いたします。
  3.  ブラック企業の一掃に関する要請
     映画演劇産業では古くから「嫌なら辞めろ、代わりはいくらでもいる」という風潮が根強いうえ、労使ともに労働関連法規の知識も浅く、それらが原因となった労使のトラブルも少なくありません。そうしたトラブルが今日では「ブラック企業」や「パワハラ」という呼び名で定着していますが、他産業でもその要因は同様だと考えます。青年労働者の有する映画演劇という職種への強い拘りを逆手に取ることと同様に、正社員を人質にしたブラック化が蔓延る背景には、前述している雇用の規制緩和政策が拍車をかけているとも考えられます。ブラック企業一掃のためにも、担当部局の拡充とともに、経営者への周知と指導、雇用政策の見直しに向けて努力されるよう要請します。
  4. 偽装請負の解決と労災に関する要請
    (1)映画・演劇・アニメの製作現場では「業務委託契約」「作品契約」などという請負形態を押しつけられて働いている労働者が数多くいます。しかし彼らの労働実態は、使用者の指揮命令を受けて働いている労働者そのものであり、労働法の保護をすり抜けようとする悪質な偽装請負です。映画・映像界の労働現場に蔓延する偽装請負の実態を掴み、その摘発と是正指導、労働基準法適用に向けた指導を引き続き強く要請いたします。
    (2)こうした偽装請負の背景には労災すら適用されないという切実な問題も控えています。芸能実演家に対しては平成8年労基研報告で労働者性判断基準が示され、そこでは判断要素の全てが満たされなくとも労働者性が肯定されるとされていますが、実態が追いついていません。他産業を通じても、請負化することで残業、最低賃金、有休といった基本的権利を奪い、一方で税制的にも業務上災害の賠償責任すらも優遇される実態がある以上、偽装請負の拡大は必至です。貴省におかれましては少なくとも労災適用に関してはILO198号勧告を踏まえた上で「純然たる事業主以外は労働者とみなす」立場での労働者性に関する立法措置に向けた努力を要請いたします。
  5. 派遣法に関する要請
    (1)労働者派遣法では、専門26業務の登録型派遣が例外として認められています。映画・アニメ製作現場のほとんどは拡大解釈された「専門職」の範疇にされ、派遣先会社(製作会社)の雇用義務の免除が続いてしまいます。一方で、26業務でありながら指定された業務だけを遂行する例は限られ実質的に派遣法違反の状態も指摘されています。このような実態に鑑み、専門26業務から「放送機器等操作の業務」「放送番組等演出の業務」を除外することを引き続き強く求めます。
    (2)26業務に関連しては3年経過後の同一職場における直接採用があっても、派遣労働者への直接雇用への切り替えは有名無実化しています。少なくとも現行法下での26業務で働く派遣労働者については厳密に直接雇用への道筋を設けるよう各経営への指導を強めて下さい。
  6. 雇用分野における規制改革に関する要請
    (1)1月に発表された「労働者派遣制度の改正について(報告案)」は私たちに大きな衝撃を与えました。派遣元での無期雇用や派遣先従業員過半数の意見聴取によって派遣期限が無期化されるなど、派遣会社の利益のみを重視した内容であり、直接雇用を願う派遣労働者の切実な要求が全く反映されていません。同法の趣旨である労働者保護の見地から抜本的な見直しを行うよう求めます。
    (2)派遣法以外でも「限定(ジョブ型)正社員制度」「労働時間法制の見直し」「解雇の金銭解決制度」など、従来の労働者の権利や保護を大きく貶める内容で検討がなされているようです。 これは、長時間過密労働が増加する正社員の一方で、能力がありながら低賃金に据え置かれる非正規労働者や請負労働者であふれる現在の悪循環をより加速させるものとしか考えられません。
     私たちは、むしろ現在の労働法制を規制強化することこそ必要だと考えています。貴省におかれましてはディーセントワークの実現を目指す立場で労働法制の規制強化に向けてご尽力頂けるよう要請いたします。
以上
連絡先
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
 映画演劇労働組合連合会(映演労連)
電話=03-5689-3970 FAX=03-5689-9585