映画演劇文化への公的支援拡充を求める特別決議
いまこそ、私たちは日本における映画演劇など芸術文化に対する公的助成の拡充を訴える。
かねてより、先進諸外国に比較して低いと指摘されてきた国内の文化支援については、90年3月に芸術文化振興基金が創設、01年12月には文化芸術振興基本法が公布、03年4月には文化庁が「これからの日本映画の振興について〜日本映画の再生のために〜12の柱」とする提言をまとめるなど、政府も「文化立国」を標榜するに至ったはずである。芸文振基金の20年を振り替えれば、創設時200本台であった邦画公開本数はいまや400本を越し、邦画製作本数の増加要因の一端を担ってきたことは否定できない。国内3千とも4千とも言われる中小の劇団にとってみても、公的支援の役割は劇団そのものの維持に貢献してきたはずである。
だが、文化庁の支援実績は03年度の舞台芸術・伝統芸能に66億5千万円、映画製作に12億7千万円をピークに、その後は逓減傾向に歯止めがかかっていない。国の一般会計と比較しても文化庁予算は全体の0.1%に過ぎないにも関わらず、である。それだけでなく、公布された基本法の理念として掲げた「芸術活動を担う者の地位向上」そして「居住する地域に関わらず文化芸術を享受できる環境」に至っては、依然として具体的着手からは程遠い現状にあるというほかない。
一方で、昨年来生じている未曾有の経済不況は、映画演劇産業に極めて深刻な影響を及ぼしている。各団体に従事する映演労働者賃金の遅配欠配は言うに及ばず、解散や倒産は既に現実のものとなり、職能の維持継承は確実に寸断されようとしている。映演産業に従事する労働者の大半は不安定雇用に晒され、社会的地位は依然としてその底辺をさまよっているとしか言えない。また、スクリーンが急増した反面で映画館ゼロ都市は増加の一途にあり、劇団にしてもその7割は首都圏に集中するなど、過当競争と地域間格差の両面で重大な問題が横たわっている。さらに、それに追い討ちをかける新型インフルエンザの発生は、学校公演に多大な影響を与えている。そして、ここに列挙した危機的状況は、いずれも基本法の理念が活かされれば存在し得ない危機ではないのか。
また、直近の課題として見過ごせない問題がある。いま現在、鳩山新政権は、各省庁の概算要求と5月補正予算の見直しを開始している。無駄な公共事業や税金の無駄使いについては多いに見直すべきところであろう。特に、麻生政権の目玉として補正予算に組まれた「国立メディア芸術センター(117億円)」の計画中止には私たちも異論はない。しかし、補正予算で同時に組まれたフィルムセンター相模原分館の増築費(約40億円)までも削られてしまう危険がある。収蔵庫の増築が見送られることは日本映画界にとって問題であるだけでなく、映画文化の未来への継承という立場でも大問題だと指摘できる。
憲法25条では「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めている。まさに日本の映画演劇産業は、日本国民にとって文化的生活を保障する産業でもある。国の文化施策がこれ以上後退の一途を辿るならば、既に危機的状況にある映画演劇産業は加速度的に衰退し、憲法25条の精神は失われかねない。政府は映画演劇文化について、この危機的状況を認識するとともに、公的助成の枠組みを拡充すべく、早急な手立てを講じるべきである。
私たち映演労連は、第58回定期大会の開催にあたり、いまこそ日本における映画演劇など芸術文化に対する公的助成の拡充を求めることを決議する。