これは2006年1月23日、文化庁に提出したものです。


2006年1月23日
文化庁長官 河合隼雄 殿
映画演劇労働組合連合会
中央執行委員長 高橋邦夫
映演労連全東映労連東映動画労組
執行委員長 河内正行
映演労連フリーユニオン
執行委員長 小林義明

アニメ産業改革の提言

 海外で放送されているアニメーションの6割は日本製です。日本のアニメーションは世界的に注目され、日本は「アニメ大国」だと言われています。
 しかし芸団協が2005年に実施した「芸能実演家・スタッフの活動と生活実態調査/アニメーター編」では、日本のアニメーションを支えているアニメーターたちの想像を絶する活動と生活の実態が明らかになりました。このままではアニメーターは育たず、日本アニメ産業の空洞化は進む一方であり、日本のアニメーションの将来はありません。
 私たちは、日本のアニメ産業が健全に発展するためには、いくつかの抜本的な改革が必要だと考え、関係各方面に以下のことを提言いたします。ぜひご検討ください。

1. アニメーターを育成するシステムを作ること。

 アニメーション製作の中心を担っているのは、作画監督、原画マン、動画マンなどと呼ばれるアニメーターたちです。動画マンから原画マンが育ち、原画マンから作画監督が生まれます。優秀な動画マン、原画マンが育たなければ、優れたアニメーションは作れません。しかし日本のアニメーションは、9割の部分がアジアなど海外で製作されています。
 「芸団協・アニメーター調査」では、動画マンの経験年数は1〜5年が89.5%を占めていますが、これは動画の大半が海外で製作されているため、日本の動画マンは1〜5年で原画マンに昇格するか、退職するかというところに追い込まれるからです。しかもテレビ用アニメーションの平均動画単価は、1枚186.9円です。日本では、優秀な動画マンが育つ環境がないのです。これでは日本のアニメーションは崩壊してしまいます。
 私たちは、大手のアニメ製作プロダクション、テレビ局、文化庁、経済産業省などが協力して、日本のアニメーターを育成するシステムを確立することを強く求めます。

2. 最賃制に基づく動画・原画単価の最低基準、契約書の締結など、業界ルールの確立を。

(1) 「芸団協・アニメーター調査」によれば、テレビ用アニメーションの平均原画単価は1カット3737.7円、平均動画単価は186.9円です。また月の作業日数は平均25日間、月の労働時間は約250時間、一日平均10.5時間とされています。
 また一般に、原画マンの月の作業量はテレビ用アニメで約50カット、動画マンの月の作業量はテレビ用アニメで約500枚と言われていますから、そこから推算できる彼らの月収は、原画マンで約187,000円、動画マンは約94,000円にしかなりません。1時間単価でみたら動画マンの場合は約374円で、東京都の最賃の半分程度です。
 私たちはこれを、せめて最賃の基準並みに引き上げるべきだと思います。
 具体的には、
〔原画〕テレビ用アニメーションの場合、1カット5000円に(×月50カット=250,000円)
〔動画〕テレビ用アニメーションの場合、1枚350円に(×月500枚=175,000円)
 ──これを最低限の業界ルールにすべきだと思います。

(2) また、作品に従事するに当たっては、期間、数量、ギャラ、権利関係、待機期間の保障などについて、必ず事前に製作プロダクションと契約書を締結することを業界のルールにすべきだと思います。

3. テレビ局との公正な契約関係を

 放送局とアニメ製作プロダクションとの不公正な取引関係も続いています。テレビ局による権利の取り上げなども問題になっています。私たちは当面、2002年6月に「アニメーション産業研究会」が作成した「モデル契約書」の活用を求めます。

4. 2次使用利益を還元するルールを

 アニメーションも著作権法上、「映画の著作物」とされ、著作権は映画(アニメ)製作者に帰属していますが、監督(演出)だけには2次使用利益が一部還元されています。
 しかしアニメーションはその性格上、監督だけでなく作画監督、キャラクターデザイナー、美術デザイナーも強い創造性を発揮しています。私たちは当面、監督だけでなく作画監督、キャラクターデザイナー、美術デザイナーにも2次使用利益の還元システム作るべきだと思います。あわせて、還元された利益が本人の手に渡るようにシステムを改善すべきだと思います。
 また、将来的には著作権法を改正し、監督、作画監督、キャラクターデザイナー、美術デザイナーに著作権を認めるべきだと思います。

5. アニメ従事者の社会保障の充実を

 「芸団協・アニメーター調査」によれば、「プロダクション勤務」が過半数を占めているにもかかわらず、健康保険は「国民健康保険」が81.4%、年金は「国民年金」が66.0%(未加入21.6%)、雇用保険は64.9%が未加入です。これは、アニメーターの多くが「プロダクション勤務」にもかかわらず、労働保険や社会保険が十分に適用されていないことを示しています。
 文化庁・映画振興懇談会の「12の提言」は「映画製作にかかわる者が,他の産業分野の一般勤務者並みの保障の下に,安心して仕事ができるよう,国は,環境の整備に努める必要がある」と述べていますが、アニメ従事者が他産業の勤務者並みの社会保障のもとに仕事ができるよう、製作プロダクションや関係省庁は早急に対策を講じるべきです。

以上
連絡先
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
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