2005年8月11日
文化庁長官 河合隼雄 殿
映画演劇労働組合連合会
中央執行委員長 高橋邦夫

2005年映画振興に関する要望書

 映連の2004年映画統計によると、興行収入は史上最高の2109億1400万円(前年比3.8%増)に達し、映画人口は1億7009万2000人(前年比4.8%増)を記録しました。スクリーン数もこの12年間で1091スクリーン増え、2825スクリーン(前年比144スクリーン増)となりました。シネコンの比率は63%に達しています。04年に公開された劇場用映画は、邦画310本(前年比23本増)、洋画339本(前年比4本増)の合計649本(前年比27本増)でした。

 しかし、10億円以上のヒット作51本(邦20本・洋31本)で全興収の8割を占めています。残り約600本の映画は瀕死の状態であり、シネコン中心の市場は多様な映画の鑑賞機会を奪っています。「製作と上映の自律的な創造サイクルの確立」は、遠のくばかりです。これが日本映画界の実情です。

 2003年4月24日、「映画振興に関する懇談会」は「日本映画振興について〜日本映画の再生のために〜」と題する「12の提言」を発表しました。それから2年以上が経過しましたが、その後の日本映画への支援策、振興策は、「製作と上映の自律的な創造サイクルの確立」を促したとは言えません。

 私たち映画演劇労働組合連合会(映演労連)は、日本映画振興について改めて要望事項を提起いたします。ぜひともご検討され、これら要望事項の早期実現を心からお願いする次第です。

(1) この1年で「12の提言」の中のいくつかの課題は実施されましたが、「12の提言」の中核をなす大きな課題は実施されていません。私たちは、「12の提言」の早期の全面的な実現を求めます。

(2) 特に「提言」の柱であった、すべての映画のプリントを保存する事業の早期実施を求めます。またフィルムセンターの独立、17年度予算で切られた「機能充実経費」の復活を求めます。
 過去の作品についても本腰を入れて収集・保存すべきです。海外も含めた所在調査(保存状態や痛み具合の調査も含めて)を行い、年次計画を立てて収集・修復・保存に取り組んでください。収集した映画について、作品を選んで暫時デジタルリマスター化を進めるとともに、全国民が利用できるデジタル・アーカイブ・システムを確立してください。ポジ・フィルムだけでなく、完成台本やポスター、チラシ、スチールなどの映画関連資料も収集・保存してください。

(3) 日本映画の危機的状況は公的助成のいっそうの拡充を必要としています。私たちは、「意欲的な企画作品の製作支援」「新人監督・新人シナリオ作家作品の製作支援」の更なる拡充を要望します。
 また、支援作品の審査基準、支援作品名、支援作品への評価の公表を求めます。

(4) 多様な資金調達のスキーム作りとして、文化庁は「日本政策投資銀行による融資制度の創設」などを発表しています。公的融資制度の実現は、日本映画の振興にとって重要なことだと考えますが、現状どこまで制度化が進んでいるのか、いつ創設されるのか、どういう制度になるのか、などを明らかにしてください。
 私たちは、映画の公的融資制度は、すべての映画を対象に、映画原版担保制度の実施、無利子、製作費の50%以内の融資、3年〜5年の返済、返済義務最下位を原則にすべきだと考えます。

(5) 私たちは日本映画を継続的に支援する独立機関として「日本映画振興基金」の設立を提案してきましたが、このたび経団連コンテンツ部会などの主導で「映像産業振興機構」が設立されました。文化庁の「日本映画・映像」振興プラン事業と、この「映像産業振興機構」との今後の関わりを明らかにしてください。

(6) 日本の撮影所は一部でリニューアルなどが進んでいますが、経営的には危機的状況です。しかも撮影所への公的支援はほとんど行われていません。私たちは撮影所への固定資産税の減免、スタジオ等のリニューアルへの支援(税制支援、減価償却年数の延長、損金処理など)、用途地域の見直しなどを強く求めます。
 「提言」が言及した「撮影用の屋外セットの確保」については、場所は東京近郊、数万坪の規模で、作品内容に応じて多目的に使えるオープンセット用地の確保を要望します。

(7) 平成16年度から始まった「人材育成支援事業」は、映画製作をめざす学生に1〜3ヶ月の実践の場を提供するにとどまっており、人材育成には不十分です。私たちは本格的な人材育成制度の実施を求めます。
 また、映画には撮影所でなければ育たない職能もあります。各撮影所は、経営的な苦しさの中でもそういう職能を必死に維持しようとしています。インターンシップの促進とともに、撮影所での人材育成を支援する制度を早期に実現してください。

(8) 多様な映画の鑑賞機会を保障するため、「新たな上映機会の提供」事業のいっそうの拡充を求めます。
 「子どもへの日本映画の普及」事業については、「面白い映画、その時代の最先端の映画を一番良い映画館で見せる」ことを基本に遂行してください。3年間の時限事業ではなく、継続されることを要望します。

(9) 今、日本映画の上映支援策で一番求められているのは、日本映画専用の上映網の確立です。日本映画の製作本数は増えているにもかかわらず、ハリウッド映画やヒット作優先のシネコンによって上映機会を奪われています。私たちは日本映画専用の上映網の確立と、日本映画専用上映館への助成の実施を求めます。

(10) 芸団協は昨年から今年にかけて、文化庁の要請で映画映像スタッフとアニメーターの「活動実態調査」を行いました。この調査結果を直視し、「提言」が「映画製作にかかわる者が、他の産業分野の一般勤務者並みの保障の下に、安心して仕事ができるよう、国は、環境の整備に努める必要がある」と述べたことを実行してください。
 私たちはまず、フリー契約者も加入できるような雇用保険制度の改革を強く求めます(例えば、雇用保険料の事業主負担分は作品の製作費で持ち、個人負担分はギャラから天引きする。一定以上の年間労働日数を働いたものが1ヶ月以上失業したときに支給される、など)。
 また、空洞化するアニメ産業を守り、日本のアニメ文化を守るために、文化庁としてもアニメ産業の歪んだ構造にメスを入れ、アニメ労働者の救済と育成に向けて関係省庁、関係諸団体と連携して行動を起こしてください。

以上
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