I. '11春闘をめぐる情勢
1. 政治・経済の情勢
1月13日、野田首相は、「消費税増税を柱とする税と社会保障の一体改革などに取り組む態勢強化のため」として、5閣僚を交代させる内閣改造を行った。問責閣僚の退任で野党の牽制を交わし、先にまとめた「社会保障・税一体改革」素案に基づき、2014年4月には8%に、2015年10月には10%に消費税率を引き上げようとせんがための蛮行である。
昨年9月の発足以来野田政権は「国民のために汗をかくどじょうのような政治」という言葉とは全く正反対に、国民を裏切り、愚弄し、生命の危機に曝し続けてきた。
09年の政権交代時に国民が期待を寄せた、「国民生活第一」「政権担当期間中税率引き上げは行わない」「コンクリートから人へ」「対等な日米関係」といった公約のことごとくが打ち捨てられ、国民生活が破壊されようとしている。
消費税増税により国民に負担を押し付けようとする一方で、大企業には財政負担や雇用責任を求めるどころか、優遇税制はそのままに法人税減税を画策し、財界の要望そのままに、破綻した成長戦略へと時計の針を逆戻りさせようとしている。働くものの疲弊の上に、大企業は266兆円もの内部留保を溜め込んでいる。また、09年マニュフェストの目玉の一つであった八ッ場ダムの建設中止が撤回され総事業費9000億円と言われる建設再開が決定され、1メートル1億円以上もかかる東京外郭環状道路が予算化されるなど、税金の無駄い使いは全く見直されていない。さらに税制と「一体」とされる社会保障についても、「改革」とは名ばかりの、負担増と給付減といった切り捨てのみの改悪が目論まれている。
「国外、最低でも県外」に移転するとの方針が語られた米軍普天間基地の移設先は名護市辺野古への移設へと逆戻りし、沖縄県民の再三の意思表示は踏みにじった上、2011年末には環境影響評価書を未明に搬入するなどの姑息な行為が、県民の更なる怒りを買っている。また武器輸出三原則を緩和して平和国家としての理念すらかなぐり捨てようとしている。
国民の大反対を無視して交渉参加が表明されたTPPへの加盟が実現すれば、米国や多国籍企業のみを利する反面、日本の農林漁業に破壊的打撃を与えるにとどまらず、医療の現場に市場原理が持ち込まれ、公共事業、労働市場の自由化によって一層の格差と貧困の拡大をもたらされ、GDPは8.4兆円減少し、雇用は350万人も減少するなど、日本の産業全体が破綻してしまう。
格差と貧困の象徴である派遣切り、非正規切りの歯止めとなるべきはずの労働者派遣法改正案も、2011年秋の臨時国会で完全に骨抜きにされた修正案が民主・自民・公明3党で合意され、企業のやりたい放題に働くものの切り捨てが横行しかねない情勢である。
レベル7という史上最悪の原発事故は未だ収束の目処が立たず、直接的に間接的に多くの人々に苦しみを与え続ける中、核と人類は共存できないことが明らかとなっているにも関わらず、強引な収束宣言で幕引きを図り、停止中原発の再稼働を急ぎ、原発の海外輸出を推進しようとしている。
私たちは、米国・財界の御用聞きとなって国民の生命を食いものにするような政治の暴走をこれ以上許すわけにはいかない。
2. '11春闘をめぐる経済界、労働界の動き
●経済界の動き
日本経団連は「復興から新たな飛躍へ」をスローガンに、震災や円高を口実とした利益優先と言える主張に拍車をかけ、政府に迫っている。その特徴は被災地の復興をビジネスとして捉えること、法人税減税の一方で消費税を含む税と社会保障の一体改悪を目論むこと、TPPを手始めとした2020年目途のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を構築することの3点に集約される。その大部分が年末に閣議決定された「日本再生のための基本戦略」に踏襲されており、政府・財界の癒着ぶりが露わとなった。
大手企業は266兆円もの内部留保(手許流動性資産は60兆円)という金余りにも関わらず、法人税減税(30%→昨年国会で25.5%→復興増税で28.01%)を果たしており、さらに輸出に影響しない消費税増税のみが国の財政難を救えるかのように流布する。円高を口実とした海外への生産拠点移転や、さらには電力不足による経済活動への影響という口実で原発再稼働までも主張する。被災者、一般市民、中小企業の立場を顧みない、正に政府も巻き込む惨事活用型資本主義の具現化と言える。
先ごろ発表した「危機を乗り越え、労使で成長の途を切り拓く」と題する経労委報告の論調も同様で、現状の危機を煽りつつ、その解決は国際競争力強化による経済成長にこそあると断じ、「ベアは論外」と主張、定期昇給の延期・凍結にまで言及するなど、従来に増して人件費抑制論を振りかざしている。
●労働界の動き
連合の春闘方針では、今年初めて「ディーセントワーク」が掲げられ、格差是正や底上げが打ち出されているものの、経済闘争については成果配分僅かに1%目安(または5000円)と、例年の基準を示すに留まっている。しかも、骨抜き修正された派遣法改正案を容認するのみならず、国民負担増の顕著な「社会保障と税の一体改革素案」が閣議報告されるや否や、即日これを評価する事務局長談話を発表している。
しかし、連合の中枢である金属労協が推し進めるベアゼロ方針に対抗して、春闘ベア要求を掲げる「有志共闘」がゼンセン同盟の呼びかけで始まるなど、格差と貧困が顕在化する中で連合内部にも新たな動きが出ている。
全労連・国民春闘共闘は「雇用と仕事の確保、賃上げ、社会保障の拡充で、内需中心の経済、震災復興」をスローガンとする春闘方針を掲げている。
主要な課題については、(1)震災による雇用悪化に歯止めをかけるべく、ディーセントワーク署名も武器に労働法制改善を政府に求めるとともに、(2)生計費原則の賃金・所得確保(時間額100円以上、月額1万円以上の賃上げ獲得ならびに最低時給1000円実現)など、賃上げによる内需拡大と震災復興、そして「99%ための安心社会を目指す総行動」を呼び掛けている。併せて(3)労働時間短縮、労働安全衛生基準の改善などによる良質な雇用実現、(4)税と社会保障の一体改悪に反対し、消費税増税やTPP問題に積極的に取り組み、(5)改憲を許さず、核廃絶と安保廃棄を目指すこととした。
春闘期から「安心社会を目指す大運動」として、(1)内需拡大 (2)原発ゼロ (3)震災復興と被災者支援を目的として3月中旬に50万人以上の決起を呼びかけるなど、例年に増して経済闘争と政治課題を前面に押し出して闘う姿勢を鮮明にしている。
3. 映画・映像産業の情勢
(1) 映画産業の情勢
2011年の映画界は、3月11日の東日本大震災の影響が長引いた一年であった。マグニチュード9.0の大地震とそれに伴う大津波によって、東北〜北関東の映画館が直接的な被害を受けた。そこに電力不足による計画停電や営業自粛が追い討ちを掛けた。一連の大震災によって、泉コロナシネマワールドとシネマックス鴻巣などが閉館に追い込まれ、仙台コロナワールドやシアターフォルテなどが長期的な休館を余儀なくされている。また、多くの作品の上映や製作が中止、延期された。「のぼうの城」は内容面から公開を一年延ばし、「唐山大地震」は上映のめどが立っていない。山田洋次監督「東京家族」、北野武監督「アウトレイジ2」などの製作が延期となった。
こうした震災の影響もあり、2011年の日本映画界の興行収入は2010年(興収2200億3700万円)対比82.1%の1811億9700万円にまで落ち込んだ(2009年対比では約87.9%)。入場者数は1億4472万6000人(前年比83.0%)、公開本数は799本(同111.6%)。興収の邦洋比は邦画54.9%:洋画45.1%。100億円を越えるビッグヒット作は皆無で、邦画では50億円以上の作品も出なかった。
その中でも健闘した作品は、「ハリー・ポッターと死の秘宝part2」(96億円)、「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」(88.5億円)、「ハリー・ポッターと死の秘宝part1」(69億円)、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」(42.5億円)、「カーズ2」(30億円)、「コクリコ坂から」(44.6億円)、「劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ 2作」(43.3億円)、「ステキな金縛り」(42億円以上)、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(41億円)、「GANTZ」(34.5億円)、「SP 革命篇」(33.3億円)、「相棒−劇場版U−」(32億円)などである。上記の作品は、TV局が主導して製作する東宝配給作品と、3D洋画大作が大部分を占めている。これは、過去最高の興行収入を上げた前年と同様の傾向であり、パイが縮小する中で優勝劣敗がますますはっきりしてきたことを示している。
近年、映画会社の廃業・再編が続いているが、昨年も1月に米メジャーの宣伝を引き受けてきた「ドラゴンキッカー」が解散、4月に多数の映像制作に関わってきた「ミコット・エンド・バサラ」、2月には製作配給社の「ゼアリズエンタープライズ」、8月には制作会社の「ゼネラル・エンタテインメント」、12月に宣伝・配給会社の「リベロ」が破産し、業界から姿を消した。
また、2011年はスクリーン数が減少を始めた年として記憶されることになるだろう。震災の影響以外でも、恵比寿ガーデンシネマ、シネセゾン渋谷といった老舗のミニシアターや、梅田ピカデリー・池袋東急・テアトルダイヤなどの既存館などの閉館となり、73スクリーンの減少となった(3339スクリーン/長期的な休館劇場を含む)。これはシネコンが日本に登場した1993年以来、実に18年ぶりの減少となる。2012年もシネコンの開業予定が少ないことから、引き続き大幅なスクリーン減が予想される。
昨年は、劇場のデジタル化が一気に進んだ一年でもある。VPF(ヴァーチャル・プリント・フィー)の仕組みが成立し、スクリーンの過半数がデジタル化された。2012年はさらにデジタル化が加速していく見通しだが、その一方でデジタル化の波に乗れないインディペンデント系の興行会社の経営が立ち行かなくなる可能性が出てきている。また、35mmプリントの製作を請け負ってきたラボ会社の経営基盤も大きく揺らいでおり、昨年末には東京現像所が従業員の約半数に上る70名の希望退職を募集。今年に入り、デジタル化の先をいくアメリカで、老舗のフィルム製造会社イーストマン・コダック社が経営破たんに追い込まれた。今後、国内への悪影響が懸念される。
2012年は、年頭から動員数の前年割れとなっている。このまま昨年同様に興行収入の低迷が続くようだと、経営体力のない興行・配給会社の経営悪化は深刻さを増す。日本の映画界は、危うい方向へと折れ曲がりかねない大きな節目に立たされていると言えるだろう。
最後にTOHOシネマズが一部劇場にて実施したテスト入場料金設定が話題となったことを付記しておきたい。基本料金の引き下げやレディースデーなどの割引制度を廃止するなど、各劇場で様々な設定を凝らしたが、従来と比べて動員が顕著に落ち込み、一年間の予定だった実験期間を大幅に前倒しての終了となった。お客さん本位の入場料金の設定がいかに難しいかを示す結果と言えるだろう。入場料金の問題は、現政権が目論む消費税増税の動きいかんでは、近く業界全体で本格的に議論していく必要があるだろう。
(2) 映像ソフト業界の状況
JVA(日本映像ソフト協会)発表の2011年1月〜11月のビデオソフト売上累計は2,319億5,900万円(前年比99.9%)で、内訳はDVD売上が1,782億6,800万円(構成比76.9%)、ブルーレイが536億9,100万円(構成比23.1%)。
DVDにおいてはセルが1,076億1,600万円で前年比89.5%と落ち込んだのに対し、レンタルは695億4,800万円で前年比97.6%と、映画興行収入が昨年比2割減と落ち込む中で前年並の数字を維持している。東日本大震災の影響でレジャーを自粛する風潮となり、手軽に在宅で楽しめるレンタルソフトへの需要が一時的に高まったことが要因のひとつである。直近数ヶ月のみを見ると昨年比90%前後の月が多く、厳しい状況である。
BDにおいてはセルが510億8,100万円で前年比135.4%、レンタルが25億4,000万円で前年比130.3%。セルは構成比61.4%(2011年6月現在)のアニメが前年比132.4%(同)と堅調に伸びた他、邦楽ジャンルが前年比383.5%(同)と大幅に伸び、全体でも9.7%(同)を占めるほどになった。レンタルは、構成比68.9%(同)の洋画が前年比150.0%と伸びた他、これまで取り扱いの無かった邦画やアニメなどの他ジャンルが参入したことで数字が伸びた。ただし、レンタル全体から見ると3.4%のシェアであり(前年シェア3.0%)、レンタルBDの普及がすすんでいるとは言いがたい。
セル業界ではネット通販のシェアが拡大し、リアル店舗が苦境に立たされている。新星堂やHMVのような大手も、大幅な閉店や人員削減、吸収合併などの憂き目にあっている。
レンタル業界においては二強化が進んでいる。旧作100円レンタル開始以降、破竹の勢いで店舗数を伸ばし続けるGEOに対し、品揃えや独占・先行タイトルを武器に対抗するTSUTAYAという構図の中、中小の一般店は閉店・合併を余儀なくされている。JVAレンタルシステム加盟店数(転居先不明除く)が2010年末で4076店に対し、2011年11月末時点で3897店と大幅に減っている中、GEOはこの1年で100店ほど増店している。急激な拡大の一方で、不採算店舗のリスクや経営陣の内紛等、注視すべき点もある。
取り巻く状況は厳しい。HDレコーダーの普及やネット動画サイトの広がり等、映像コンテンツの楽しみ方が多様化する中、ソフト購入者・レンタルユーザーは減少傾向にある。又、まだまだシェアは小さいとはいえiTunesをはじめとするネット配信がパッケージに及ぼす影響も注視しなければならない。各メーカーにおいては、購入額の多くを占めるヘビーユーザーに向けた魅力的なコンテンツの拡充と、進化するデジタルメディアへの柔軟かつ迅速な対応が求められている。
(3) テレビ業界の状況
昨年中に一部地域を除く地デジへの移行が行われた。当初予想されたほどの混乱はなかったとされるが、誰のための地デジ移行だったのか、という疑問に答えが見つからない。視聴するための費用や手間という点では、最もテレビを見る高齢者のテレビ離れも指摘され、全くTVを見ない割合(2010年統計で11%)がさらに高まると予想されている。TV各局はサイマル放送の費用負担を強いられ、結果08年対比で1割前後の制作費削減が行われるなど現場の疲弊が高まっている。ハード面の普及による特需を見込んだメーカーや流通側も深刻なデフレ市況にあって販売単価を切り下げるなど消耗戦を呈した。
そうした中で起こった震災は、上向きにあった民放キー局のスポット売上の落ち込みを招き、9月中間期決算は全社ともに前期比で減収に転じた。しかし、6月以降は再び回復傾向を示しており、来年にかけては10年度比較で増収が予測(民放連)されている。
ここで回復が進まないのはむしろ、原発報道で露呈した視聴者の不信感かもしれない。政府・東電による大本営発表の垂れ流しは言うまでもないが、8月に東海テレビで起きた「不適切テロップ(セシウムさん)問題」も見過ごせない。原子力村を大スポンサーともてはやしてきたメディアの在り方に加え、制作費の削減や外部委託化などで高まる現場の疲弊が一連の意識低下を招いたと言えよう。
ラジオの分野は引き続き苦境の中、放送法改正でマスメディア集中排除原則が緩和されたことにより一挙に再編へと動き出している。大資本による複数局(ラジオは4局まで)の合併が可能となることから、言論表現の多様性の危機が指摘できる。
CS放送では朝日ニュースターのテレ朝への事業譲渡(従業員の承継を巡って争議状態に突入)が発表されるなど、その分岐点にある。110度CS(スカパー!e2)はCH数を増やしながらHD化を進め、BSでも新たな放送が開始されるなど、12年中に全てが整備・出揃うなかでそれぞれの存亡が試される。
また、地デジ化によって空いたVHF帯を利用するモバキャス(携帯向けマルチ放送の総称)が4月より開始されることとなった。NTTドコモを筆頭にNHKや民放キー全局が参入する(株)mmbi(資本金500億円)は、NOTTVとの名称でスマホ用放送を行い、初年度で100万人の利用を目指している。放送と通信の両面を活かすメディアという特徴はあるが、その成長性には疑問の声も大きい。
IPTVの分野ではメーカー主導で始まったアクトビラ、GoogleTV、AppleTVなどいずれも苦戦が強いられている。放送は従来同様テレビで視聴、通信はモバイル端末という日本のみならず世界的な流れがある中では、モバキャスにも過度な期待を抱くことは難しい。アナログ跡地への新規参入を求めた総務省の期待が、応募企業わずかにmmbi1社のみという格好で裏切られた理由とも考えられる。
(4) アニメ産業の状況
アニメーションの主力事業である地上波番組数は50本である(1月2日〜8日現在。東映アニメ調べ。再放送、再編集番組を除く)。これは、ピークだった2006年155本の3分の1以下の本数。土日放映が計24本で、午後7時からのゴールデンタイムでの放送は1本もない。深夜アニメは8本と、昨年8月末より4本減少している。
また、テレビ東京系で放送されている『NARUTO』が、日本での放送と同日に中国向けに配信を始めた。現在のアニメ作品の同時配信は違法アップロード対策でもあり、配信単体でのビジネスとして成立するまでには至っていないが、昨年は日中合作映画「チベット犬物語〜金色のドージェ」やトムスエンタテイメントの「劇場版名探偵コナン」が中国で全国公開され、東映アニメの「一休さん」が中国のアニメ会社でリメイクされるなど、中国は日本のアニメの人気が高い。これからは中国が、アニメの下請けだけではなくアニメの有望な市場として伸びて行くことが期待されている。
正月の劇場アニメ作品は12月3日に封切られた「映画 けいおん!」が興収15億円を超え、現在も公開中である。その後に封切られた「イナズマイレブン」も興収10億円を超えている。また、海外児童文学原作の「マジックツリーハウス」も好調に推移している。今年も30本の劇場アニメの公開が予定されている。主に漫画原作でテレビシリース作品の劇場作品が多数をしめるが、今年はオリジナル作品も増えている。DVDの売上げが落ちているなか、ハイクオリティー作品は劇場アニメにシフトし、アニメ会社の業績も劇場作品の比率が上がってゆくと思われる。
昨年3月11日の東日本大震災の影響で、アニメ関係のイベントも多数が中止された。なかでも「東京都青少年育成条例」をめぐり行政と製作会社との対立で注目された「東京国際アニメフェア」と「アニメコンテンツエキスポ」は、前者が3月22日から25日まで東京ビッグサイトで、後者が3月31日〜4月1日幕張メッセでそれぞれ開催される。震災で中止のアニメイベントが復活したもので、今年は日程もずらし、昨年の対立色は薄まったように見えるが、条例自体の表現の自由を規制する危険な内容はそのままであり、今後の監視が必要である。
日本のアニメーションは「ジャパニメーション」と言われて海外で評価され、文化庁が進めるクールジャパンの目玉ともなっているが、アニメの製作現場での人材育成はますます厳しくなっている。経済産業省の支援で2006年から3年間行われてきた「アニメーター養成プロジェクト」は昨年から休止している。公的な人材育成の混迷が続くなか、日本動画協会は文化庁メディアの支援事業として「アニメ・クリエイター育成ビジョンづくり 産学推進プロジェクト」の企画・推進を開始するというが、実態はまだ準備段階で、アニメ関連企業と大学、専門学校など教育機関へのアンケートやヒアリングからはじめるという。
昨年は「サマーウォーズ」の細田守監督の新会社「スタジオ地図」や、製作会社ガイナックスから監督、アニメーター、プロデューサーが独立した「トリガー」のような新会社の立ち上げが続いた。なかでも前出のトリガーも参加する持株会社「ウルトラスーパーピクチャーズ」は、クリエイター主導の会社が合同で設立した持株会社で、注目されているが、現場の疲弊に対する危機感から生まれたものとの発言もある。企画、製作部門がアニメ会社から外に出ていくことを危惧する声も聞かれる。
4. 演劇界の情勢
東日本大震災は演劇に多大な影響を与えた。多くの公演が一時休演や中止に追い込まれたばかりではない。大道具の受注減少、公演の中止または延期など多くの影響が出た。映画などに比べて、制作が“身軽な”メディアである利点を生かし、震災と原発事故に触発された舞台もまた多数作られた。 今年に入って、昨年中止または延期になった公演の再上演が日程化されてくるようになった。
商業演劇では、歌舞伎座が改築工事に入ったため、歌舞伎の上演場所が点々として定まらないせいか、観客の動きに偏りが生まれている。また、同じ都内で同時期に複数の一座が興行をもつということの功罪が試されることになろう。また歌舞伎座建替えに加え松竹の演劇部門は、震災による巡業公演の中止など直接的な影響を受けた他、間接的にも御園座、博多座などの地方劇場の公演が振るわず、特に関西の興行に冷え込みが大きく影響し、震災後に見直した予算を更に下回って大幅な赤字を計上する見通しである。 一昨年末に体調を崩し、休養していた中村勘三郎は昨年7月に舞台復帰し、9月から本興行にも登場。7月、中村吉右衛門が人間国宝に認定された。暴行を受けた事件に絡み謹慎していた市川海老蔵も同月舞台に戻った。9月、市川亀治郎の猿之助襲名と同時に、猿之助の息子で俳優の香川照之が長男政明と共に今年6月、梨園(りえん)に入ることも発表された。また、2月新橋演舞場公演で中村勘太郎が六代目中村勘九郎を襲名する。3月京都南座では昨年東京であった中村又五郎、中村歌昇襲名興行が行われる。歌舞伎の観客を連続的な襲名興行でつないで行こうという戦略が予想できる。歌舞伎座改築期間に大きな収入源である歌舞伎興行でどう収益を上げられるか注視が必要になっている。
能楽も復興支援の公演が相次ぎ鎮魂の一年に。文楽技芸員らは5月公演の国立劇場ロビーで人形とともに義援金を呼びかけた。原作通りの「曽根崎心中」を目指す神奈川芸術劇場「杉本文楽」は、震災で3月から8月に延期。人形遣いの桐竹勘十郎が一人遣いの人形を復活、可能性を示した。しかし、高齢化や謡曲人口の減少などにより、一部を除いて集客が芳しくなかったこと、舞踊や邦楽をも含め、和の文化の衰退に歯止めがかからなかった。この分野は特に公的助成が必要な分野といえる。
全国の演劇鑑賞会運動も震災よって大きな打撃を受け、会員そのものが多数被災し亡くなったり、事務所が壊れたり、上演する市民会館他が使えなくなるなど、まだまだ回復が遅れている。また、3県にとどまらず、地震への耐久度が問題になり、改修工事をよぎなくされて、会場が当分使えなくなった所が多々出ている。年間の例回数を確保する上でも大きな影響が生まれている。
一方で鑑賞運動の存在意義もあらためて見直された。東北3県の観賞会への全国の観賞会からの支援活動、創造団体からの支援活動など全国が一体となった取り組みは、被災した鑑賞会を大いに励ました。児童青少年の分野でも全く同じ活動があり、子ども劇場・親子劇場の運動を支援した。中でも人形劇や音楽団体は機動性をいかして、早晩被災地をめぐり、子どもたちの笑顔を取り戻そうと公演活動をおこなった。
こうした活動の一方で全国的な鑑賞会会員は、いまだ減少傾向にある。日々の暮らしが益々悪化する中、個人の経済事情が会員数の減少にもろにつながっている。
現在、野田政権が進めようとしている消費税増税、社会保障の改悪、TPPなど、どれをとっても庶民生活をいっそう苦しめるものとなっていき、鑑賞団体にも劇団にも大きな打撃となって行くことになり、大興行資本だけが生き残って独占していくという構図が進みつつある。この分野でもそれを許さない大きな大衆運動が組織される必要が生まれている。
II. '12春闘の課題と取り組み
1. '12春闘の基本的な構え
- 大震災、原発事故と放射能汚染、TPP、社会保障改悪と増税、映演産業と映演各社の経営危機などに立ち向かい、生存権をかけた闘いとして2012春闘を闘う。
- 「単組ごとの春闘」から脱却し、本格的な「産別春闘」を展開する。そして正社員中心の従来型の春闘から、非正規労働者を含めた新しい形の「産別春闘」構築をめざす。
2. '12春闘の基本要求
- 生計費原則に基づいて活発な要求討議を行い、生活防衛、生活向上に足る賃上げ、一時金の獲得をめざして'12春闘を粘り強く闘っていく。
- 「映演労働者に誰でも10,000円以上」の産別賃上げ要求に基づいた大幅賃上げ、すべての時間給労働者に時給100円以上の賃上げを勝ち取る。
一時的な「利益減少」に惑わされず、内部留保や溜め込んだ資産、含み資産を明らかにするなど、正確な経営分析に基づいて賃上げ、一時金の抑え込みをはね退ける。 - 定昇制度を確立している企業に対しては定昇の維持とベースアップを要求する。また、4月昇給を実現していない企業に対しては直ちに4月昇給を実現するよう要求する。
- 産別最賃制は、月額16万円、日額8,000円、時給1,000円(=いずれもキャリア・ゼロの場合)とし、映演各企業との協定化を迫る。企業内最賃制の確立を各単組の春闘要求書に盛り込む。
- 「映演労連2012春闘要求書」と「産別統一労働協約案」を充実させ、映演産業の労働諸条件、諸制度の均一化と底上げをめざす。「パワハラ防止規定」の制度化をさらに進める。
- 派遣切りや有期雇用の雇い止めを許さず、非正規労働者の雇用と権利を守る闘いを前面に掲げる。
映演産業を支えるフリー契約者、非正規労働者がまともに生活できる労働条件をめざして、賃金アップ、均等待遇の実現、労働基準法適用、社会保険の適用など労働条件と雇用契約の改善を要求していく。特に労基法適用闘争を重視し、「業務委託契約」を口実にした偽装請負を糾弾する。契約社員等の社員登用制度を各企業に迫る。また、映演各社に直接雇用を原則とすることを求める。 - '12春闘アンケートの長時間労働などの結果を重視し、長時間労働とサービス残業の解消をめざす。「継続労働15時間」「インターバル11時間」「週の実労働時間60時間以内」「週1回の休日」を映演産業のルールとさせる。またワーク・ライフ・バランスを就労の原則にさせるとともに、ディーセントワークの実現をめざす。
- 映演各社に、十分な防災対策、震災対策を講じるよう求める。
- 「労働者派遣法の抜本的改正」「有期労働契約の規制」「最低賃金1,000円」の実現を、映演労連としても'12春闘の中心課題とする。
3. '12春闘の具体的な取り組み
- '12春闘の産別統一スト権を早期に確立する。
- 各労組の要求書はできるだけ早めに提出し(2月下旬か3月初旬)、スタート良く闘う。
映演労連団交は各単組の回答が出る前に行い、今年も3月中の開催をめざす。また各単組の団交には、必要に応じて映演労連役員が参加する。 - 映演労連結成60周年を記念した3月23日の「映演労連60周年と12春闘の集い」を必ず成功させる。
- 2月10日の「2・10国民春闘統一行動」、3月8日の「国民春闘決起中央行動」、3月9日の「MIC2012春闘決起集会」、3月11日の「なくせ原発!全国一斉行動」、3月13日〜15日の「99%のための安心社会めざす総行動」、3月23日の「映演労連60周年と12春闘の集い」(映演労連統一行動)、4月●日の「夜の銀座デモ」(映演労連統一行動)、4月17日の「映演労連産別スト」(映演労連統一行動/予定)、5月1日「第83回メーデー」(映演労連統一行動)などに積極的に取り組み、産別統一行動を強化して'12春闘を盛り上げていく。5月連休明けの闘いも重視する。
政府・経団連などへの要請行動にも取り組む。今年も厚労省に「要請書」を提出し、3月段階で厚労省交渉を行う。 - 国民春闘共闘の回答指定日は3月14日だが、映演労連の一斉回答指定日は今年も現実的に考えて4月16日(月)に設定し、4月17日(火)に産別統一スト(10分間程度/映演労連統一行動)を構えて、映演各社に一斉回答を迫る。その意思統一と準備のために、オルグ・教宣活動を積極的に展開する。また、妥結日も揃えるよう努力する。回答速報体制を強化し、映演各社の労働条件調査を充実させる。
- 組合員全員で闘う春闘をめざし、全組合員が一度は春闘行動に参加することを組織する。
- 「労働者派遣法の抜本的改正」「有期労働契約の規制」「最低賃金1,000円」の実現に向けて行動し、全労連や国民春闘共闘委員会が提起する行動に最大限参加する。
4. リストラ「合理化」、雇用破壊に反対し、職場と権利を守る闘い
- 映演各企業の経営危機には機敏に対応し、雇用と職場の確保を第一に闘いを構築する。資本の勝手なM&Aは許さない。リストラ「合理化」攻撃に対しては、産別ストを背景に闘う。各企業ごとの経営分析・対策会議を再開する。日ごろから経営チェック能力を高めるとともに、事前協議制を確立する闘いを進める。また、経営責任・雇用責任を厳しく追及する。経営者の横暴を許さない闘いを強化する。
また、労基法違反、労働契約法違反、派遣法違反、不当労働行為などの違法・脱法行為の一掃を目指す。契約労働者の労働基準法適用を闘い取る。 - 東映太秦映像スタッフの雇用確保を求める闘い、角川映画のリストラ「合理化」反対闘争、「歌舞伎座不況」による舞台美術関係のリストラを許さない闘いなど、リストラ「合理化」に反対し職場と雇用を守る闘いに全力をあげる。
- ラピュタ・不利益変更撤回闘争などフリーユニオン争議を全面的に支援し、早期の勝利解決を目指す。フリーユニオン東映東撮支部は派遣先会社(東映)との団体交渉を要求する。
- JAL不当解雇撤回の闘いや、MIC争議団、全労連争議団の勝利をめざして、積極的に支援する。
5. 映演産業の基盤拡充と映演文化発展をめざす闘い
- 映演文化予算の縮減に強く抗議し、日本映画への公的助成の拡大をめざす。映画の表現の自由を守り、公的助成の拡大を進めるために、多くの映画人、映画団体と共同して闘う。
- 「映画振興要望書」や「日本映画振興基金」の背景となる運動を強化するため、映職連や日映協、アニメーター演出協会、映連などとの懇談を進める。製作・配給・興行の現場で働いている組合員を集めた部門別会議や産業政策委員会を行う。
それらの活動の成果を活かして経産省と文化庁に対する「映画振興要望書」を作成し、5〜6月段階で経産省交渉と文化庁交渉を行う。 - 「演劇文化振興に関する要望書」を改訂し、文化庁との交渉を開始する。
- アニメ分野の活動を強化する。
- 放送局の一方的な番組製作費削減や権利剥奪など、放送局と番組制作会社の不公正な支配関係の改善をめざして行動する。
6. 憲法改悪阻止と、平和と民主主義を守る闘い
- 憲法改悪阻止の闘いを'12春闘の中心課題に位置づけ、それを中心に平和と民主主義を守る闘いを創意工夫して進める。「映画人九条の会」の発展に向けてよりいっそう努力する。
- 衆参両院における憲法審査会の始動や衆院比例定数削減など解釈改憲・明文改憲の策動に反対する。武器輸出三原則の見直しや海外派兵恒久化に反対し、平和と民主主義を守るたたかいを進める。
- 原発ゼロをめざす諸行動に積極的に参加するとともに、原発依存のエネルギー政策を再生可能な自然エネルギー利用へ抜本的に転換することを求める。震災復興に乗じた大企業中心の「構造改革」強行に反対し、被災者本位の復興事業を実現させる。
- 農業関係だけでなく国のあり方を壊すTPP参加に反対する。「社会保障と税の一体改革」(増税と社会保障改悪)に反対する。
7. 組織拡大と組織改革の闘い
- 組織人員1250人から、2年以内に1400人への早期回復をめざす。
- 映演労連フリーユニオンの拡大と、多発するフリーユニオン争議に対応できる体制をつくる。
- 専従役員配置に向けて準備を進め、産別組合としての機能強化をめざす。
- 教宣活動を重視し、「映演労連ニュース」「映演労連ホームページ」「パソコン・ネットワーク」をより充実させる。
III. 産別スト権の確立
'12春闘では産別スト権を確立して闘う。高率での確立をめざす。
- スト権の内容 = 「映演労連'12春闘要求の実現と産別統一労協の締結、リストラ合理化反対、雇用破壊阻止、映演産業の危機打開のためのストライキ権」
- スト権投票期間 = 2月10日(金)〜3月16日(金)
- スト権集約日 = 3月19日(月)
IV. '12春闘の主な闘争スケジュール
月 | 日 | 予定 |
---|---|---|
2月 | 2日 | MIC「経労委報告」学習検討会(18:30〜文京区民センター3C) |
10日 | 2・10国民春闘中央行動(厚労省11:00、中央集会12:00日比谷野音、銀座パレード14:30〜) | |
産別スト権投票開始 | ||
11日 | さようなら原発1000万人署名アクション集会(13:30〜代々木公園) | |
16日 | 第10回憲法闘争全国交流集会(13:30〜全労連) | |
23日 | 映演労連第4回中執(15:00〜映演労連) | |
25日 | 平和運動推進委「第五福竜丸とビキニ記念の集い」(現地14:30集合) | |
3月 | 初旬 | 各労組'12春闘要求書提出 |
8日 | 3・8国民春闘中央行動 | |
9日 | MIC2012春闘決起集会(18:30〜文京区民センター2A) | |
11日 | なくせ原発!全国一斉行動 | |
13〜15日 | 「99%」のための安心社会めざす総行動 | |
14日 | 国民春闘集中回答日 | |
15日 | MIC・出版夕デモ | |
19日 | 映演労連スト権集約日 | |
23日 | 映演労連60周年と'12春闘の集い(18:50〜文京シビックセンター5AB)【映演労連統一行動】 | |
28日 | 映演労連中央闘争委員会(18:45〜文京区民センター3C) | |
29日 | JAL不当解雇撤回乗員裁判判決(14:30〜東京地裁103号法廷) | |
30日 | JAL不当解雇撤回客乗裁判判決(15:00〜東京地裁103号法廷) | |
4月 | ●日 | 夜の銀座デモ 【映演労連統一行動】 |
6日 | 映画人九条の会「沖縄第1部」上映会(18:50文京区民センター2A/予定) | |
16日 | 映演労連回答指定日 | |
17日 | 映演労連一斉ストライキ 【映演労連統一行動】 | |
5月 | 1日 | 第83回メーデー 【映演労連統一行動】 |