I. '10春闘をめぐる情勢
1. 政治・経済の情勢
国民の生活・雇用を破壊し続けた自公政権が国民の審判を受け、政権の座から退いて4ヶ月が経過した。しかし民主党を中心とした連立政権は、ここに来てその支持率を下降させ続けている。国民の期待した対米従属・財界主導という旧弊からの脱却・転換は進まず、国民の生活は改善されないまま、日々不安にさらされ続けている。
08年秋のリーマンショック以降も底なしのデフレスパイラルが加速する危険性が高まっている。中小零細企業の雇用悪化・所得低下・経営危機が深刻化する一方、大企業は労働分配率を低下させ続け、この十年で蓄積した内部留保は429兆円と倍増している。
現政権は、未だ外需頼みの国際競争力強化を標榜する財界にメスを入れられない。格差・貧困を蔓延させた元凶である構造改革・新自由主義経済路線への反省もなく、財界・大企業は「賃金より雇用を」との態度をとり、べアゼロ、定昇凍結などの賃金政策を企図しているが、その社会的責任を真摯に果たすべく、「新時代の日本的経営」と決別し、内需拡大への転換による景気回復こそ図るべきである。
失業者数は09年2月以降、300万人を超え続けている。労働者の年収ダウンも止まらない。08年を通じて勤務した民間労働者の平均年収は97年平均より35万円減少し430万円、年収200万円台の労働者数は1067万人に達している。有期雇用の規制強化、非正規労働者の法制度整備が急務である。通常国会における重要法案である労働者派遣法の改正については、抜け穴を作らせない抜本的な改正を実現させなければならない。
沖縄・普天間の米軍基地撤去をめぐっても、鳩山政権は「県外移設の模索、国外移転をめざす」との選挙公約があるにもかかわらず、アフガニスタン増派に伴う日本の応分負担や辺野古沖基地建設を迫る米国の姿勢に及び腰となり、沖縄県民の声にこたえられず迷走を続けている。
自公政権下で成立した改憲手続き法(国民投票法)が2010年5月に施行される。自公政権下強行採決されたこの法律には18の付帯決議が付けられるような欠陥法である。与党となった民主党内には明文改憲、解釈改憲いずれもの改憲派議員がいる。施行に当たってどのような姿勢をとるのか、改憲をめぐる動向に警戒が必要である。
「政治主導」の名の下、国会法を改正し、官僚の国会答弁禁止、議員定数削減などを画策する動きも民主党内で活発化している。民主主義の破壊にもつながりかねない策動にも注視しなければならない。
09年4月のプラハ宣言、9月の国連安全保障理事会の「核兵器のない世界」をめざす決議などにより核廃絶実現を目指す機運が高まっている。2010年5月に開催されるNPT再検討委員会には唯一の被爆国であり平和憲法を持つ国民として核廃絶を求める声を強く届けていくことが重要である。
地球環境問題についてはコペンハーゲンで開催されたCOP15に期待が寄せられたが米国、中国の消極姿勢もあり、明確な政治的合意には達することができなかった。日本においては、国際公約「地球温暖化ガス排出量90年比25%削減」の具体化に大企業が率先して取り組むことこそが今最も求められている。
2. '10春闘をめぐる経済界、労働界の動き
●経済界の動き
経団連は、12月開催の経労委で「賃金よりも雇用を重視した交渉が重要」との10春闘に向けた方針案を打ち出した。ベアについては昨年同様に困難となる企業が多数に上るとの認識を前提に、ベアのみならず社員一律の賃上げ(=定期昇給)にも否定的見解を強調した。同方針の正式決定は1月中に予定されている。
この経団連方針案に対して各マスコミは、実質賃下げとなる定昇抑制の動向が拡大すれば、一層の消費の冷え込みで景気悪化とデフレの連鎖的な進行が懸念されると報じている。
回復基調とも言われる一部大企業は、上述する春闘解体を狙った労務政策に加えて下請け単価の切り下げに歯止めをかけず、その一方で政府に対しては国際競争力強化の名目で成長戦略の継続を引き続き求めている。生産拠点の海外流出や流動資産の積極運用を目指すその姿勢には、世界的経済危機への反省は微塵も見えない。
●労働界の動き
連合は12月開催の中央委員会で「賃金カーブ維持分の確保(=定昇維持)」にとどめ、5年ぶりに賃金改善要求を見送った。中小労組には5,000円の要求目安を示し、ベア要求は産別任せとしている。その一方で、非正規含めた全労働者の待遇改善を連合として初めて方針に盛り込んだ。
国民春闘・全労連は、「変化をチャンスに、貧困・格差の解消、内需の拡大を」をスローガンに、格差貧困の解消と内需拡大を目指す三つの重点課題として「雇用守れ、仕事よこせ」「生活改善となる賃上げを目指し統一闘争」「ナショナルミニマム、社会保障整備拡充」を柱とする春闘方針を決定した。具体的には「誰でも1万円以上、時給100円以上の賃上げ」「全国一律最賃1,000円」「派遣法抜本改正」などの実現を目指す。春闘期間中は複数の統一行動を投げかけ「目に見え音が聞こえる春闘」の状況を地域や職場で作り出し、貧困格差の解消・内需拡大に向けた制度改善を政府に迫り、大企業の社会的責任を追及する取り組みを構築する。
●派遣村から一年
1年前の年末年始に社会的に注目された年越し派遣村。自公政治の歪が可視化されたことで、貧困格差の深刻な実態が顕わとなった。
その後、政権交代もあり昨年の派遣村の反省から政府自治体もようやくワンストップサービス(生活総合相談=求職・生活保護・宿泊施設等の一括申請窓口業務)を打ち出し、年末年始の対応を開始した。ところが、一部マスコミが「無断外泊200名」「2万円持って逃亡」など事実を誤認した報道を行ったことで、石原都知事は生活総合相談終了を宣言した。ごく一部の心ない利用者がいたことは事実だが、外泊者の実数は40名程度で、その多くは宿泊施設の連絡先が知らされていなかったこと、交通手段の関係から外泊せざるを得なかったなど、行政側の不手際も原因であったことが判明した。相当数に及ぶ急迫状態の相談者がいることは明らかであり、ワンストップサービスの拡充こそが求められている。
3. 映画・映像産業の情勢
(1) 映画産業の情勢
日本映画製作者連盟(映連)が集計する全国映画概況によると、2009年に公開された映画は合計762本(うち邦画448本、洋画314本)、動員数は合計1億6929万人、興行収入は合計2060億3500万円となり、興行収入が3年ぶりに2000億円を超えた。前年対比は105.7%である。邦画と洋画の興行収入比率は、邦画56.9%、洋画43.1%となっており、やや洋画がシェアを戻したものの、ここ数年の邦画優位は変わらない。
興行収入だけを見ると昨年対比ややアップで不況の影響を受けていないように見えるが、映画産業全体を考えると事態は深刻である。映画産業は興行収入よりも大きい二次利用(DVD市場他)の収益で支えられている。この部分がここ数年急激に弱体化しているのだ。詳細は別項に譲るが、特に洋画のDVDマーケットの凋落は進んでおり、そのため厳しい経営状況に陥った会社も多い。2009年4月にはワイズポリシーが、8月にはムービーアイ・エンタテインメントが倒産した。共に洋画の買付・配給を事業の中核にしていた会社である。ザナドゥも実質的に倒産状態に陥っている。他にも、経営危機に直面している会社がいくつか存在する。洋画配給を行うインディペンデント映画会社の最大手、ギャガは大幅な事業縮小を行った。日活では大規模なリストラ案が提示されている。2009年は映画産業の厳しい内情が露わになった年だと言える。
興行会社に目を向けると、こちらも厳しい状況が続いている。2004年、興行収入が合計2100億円を突破した時の日本における総スクリーン数は2,825で、1スクリーン平均7,466万円だった。2009年の全国の総スクリーン数は3,396まで増加したが、興行収入はダウンし、1スクリーン平均6,067万円まで落ち込んでいる。
こうした収益性の低下に加えシネコン開発時の過当競争に起因する地代の高さ、進出後も続く過当競争、より立地条件のいい後発シネコン出現による収益の急激な悪化、デジタルシネマの導入(現在、3D対応のデジタルシネマ上映が可能なスクリーンは360スクリーン強)や、築年から十数年が経つことによる設備投資の必要などが経営を圧迫する。
結果、2009年のシネコンの新規出店は低調に終わり、新規出店は9サイト82スクリーンにとどまった(2008年は23サイト213スクリーン)。2010年には、シネコンの閉館が続くことも考えられる(なお2009年に閉館したシネコンは3サイト。うち1つは2007年12月にオープンしたばかりのシネマックス足利で、開館1年あまりでの撤退という異常事態となった)。興行会社の再編や提携も予期される。日活およびシネカノンは東京テアトルと興行提携を行ったが、これも興行事業の収益悪化に伴う再編の一部である。また、シネコン以外の劇場の閉館はとどまることなく続いている。都内有数の映画館街であった新宿歌舞伎町は閉館が相次ぎ、2009年だけで13スクリーンから4スクリーンまで落ち込んだ。
こうした映画産業全体の危機は、映画制作の現場にも当然影響を与えている。製作本数だけ見れば、2007年の邦画公開本数は407本、2008年は418本だったのに対して、2009年は448本とアップしている。しかし、採算性の悪化から現場費が大きく削られる傾向にあり、本数がアップしたにもかかわらず、映画制作の現場がワーキング・プアの温床となっている。また、海外の映画祭で受賞するなど、注目を集めていた映画監督ですら作品を作れない状況に陥っている。
日本の映画の多くは、リスク分散のため製作委員会形式にて複数社の出資を得て作られているが、映画産業の悪化に伴い出資が十分に集まらず、映画の企画がクランクイン直前に頓挫するようなアクシデントも続いている。こうした状況を踏まえ、日本の映画文化を守るためには、製作費の公的助成のいっそうの充実が必要である。また、インディペンデントの洋画買付においても、同様の理由から出資金が集まらなくなっている。このままでは海外から良質な映画を輸入することも難しくなってしまう。
こうした状況の中、映画会社の最大手である東宝は高収益を維持し、2009年は同社歴代2位の興行成績となった(歴代一位は「崖の上のポニョ」を公開した2008年)。これは「ROOKIES〜卒業〜」(興収85億3000万)「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール」(興収46億7000万)「20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗」(興収44億)といった大ヒット作に加え、過去最高数の34作品という年間配給作品の中、22作品が10億円以上の興収を記録するヒットを記録したからである。また、2009年邦画興収ベスト10のうち8作品を東宝作品が占めてもいる。
しかし、興収上位作品のほとんどがテレビ局の製作作品であり、更にそれが東宝配給にのみ集中するという事態は、ヒット作の寡占化を意味し、東宝の好調は映画産業全体の衰退と裏腹になっている。
2009年は、3Dの大作も多く公開された。大ヒット中のジェームス・キャメロン監督作「アバター」、ディズニー「カールじいさんの空飛ぶ家」「DISNEY'S クリスマス・キャロル」などが挙げられる。ハリウッドのデジタルシネマ化、3D化は更に進むと予想されるが、この流れが日本に波及するかは疑問である。3D映画製作にかかる投資額、および上映設備にかかる投資額の大きさが、日本の映画産業の規模に合致しないこともあるし、パッケージビジネスにおける影響(3D映像を家庭においてDVD等で再現することは難しい)等を考えると、3D化が日本の映画産業に与える影響はむしろマイナスである可能性もある。
3D含むデジタル時代到来にあわせ、ポストプロダクション機能の充実を目指した邦画各社スタジオのリニューアルも始まっている。しかし、映画産業自体の衰退になかなか歯止めがかけられない中、その投資も会社の経営を圧迫しかねない。中小企業が経営する劇場には、デジタルシネマ化への支援金が給付されているが、この問題でも公的助成のいっそうの拡張が必要だといえる。スタジオへの支援だけではなく、輸出産業として期待出来る日本のアニメ作品における3D化支援なども、大きな課題となるだろう。
デジタル化が進む中で、映画のポストプロダクションを行う会社としては最大手のイマジカが、大リストラを行っている。映画・映像産業全体の衰退とデジタル化への設備投資がダブルで経営を圧迫したと推測される。イマジカだけでなく、他の映画・映像関係のラボも、程度の差こそあれ厳しい経営状況に直面しているという。
映画産業全体が総崩れの体である。可及的速やかに、産業構造そのものを見直す必要があるが、そのためにはまず、先進国中ではもっとも低いレベルにある国民一人あたりの映画視聴数をアップする必要がある。習慣的に映画館に足を運ばせるためにはどうすればいいのか。少なくともテレビ局とのタイアップ・イベントと化しているいまの映画文化のあり方では、映画ならではの特異な魅力を発揮することは難しいだろう。「おくりびと」「剣岳 点の記」「沈まぬ太陽」といったテレビ局主導ではない本格派の映画のヒットに、状況を打開するヒントが隠されているのかもしれない。
(2) 映像ソフト業界の状況
日本映像ソフト協会がまとめた09年11月時点での売上速報によると、映像ソフト全体の売上は約2,430億円(前年度対比94.9%、ともに1〜11月累計前年比)と減少傾向が続いている。特に新作の売上減が顕著であり、前年度対比89%程度しか達成していない。動画配信やVOD、IP放送などのメディアがますます多様化し、売上が分散傾向にある中で、DVD市場の苦戦がさらに強まっている。角川映画は子会社である角川エンタテイメントの吸収合併を行ない、日活も昨年12月にバンダイナムコグループの大手販社である(株)ハピネットとの業務提携を図るなど、業界内での統合や合従連衡が進んでいる。
レンタル部門では、TSUTAYAやGEOなどの大手レンタルチェーンにほぼ集約され店舗数が減少している。また売り手と買い手のパワーバランスが崩壊し、デフレ傾向の景気動向もあり低価格レンタル市場が伸びており、TSUTAYAは過去最高益を記録したが、それに反比例する形でセルDVDの売上が大きく下がり、制作原価も回収できないメーカーも出て来ている。
文化庁は昨年4月から「ブルーレイ」の録画機とディスクやソフトへの「私的録画補償金」を実施した。課金措置の見返りとして地上デジタル放送の複製回数を10回に緩和する「ダビング10」を実施したが、東芝がデジタル専用のレコーダーについての補償金支払いに応じず、パナソニックもこれに追随する動きを見せた。もともとメーカー側は機器の補償金上乗せに同意しておらず、課金を保留している状況である。
この動きに対し文化庁著作権課も「デジタル放送専用でもDVD録画機なら現行制度では課金対象。法令に従い徴収に協力して欲しい」との見解を示し、また歌舞伎俳優の市川団十郎氏が著作権者を代表し「なし崩し的に延期されているのは問題だ」と強い不満を表明している。さらに私的録画補償金管理協会(SARVH)が11月10日にも東芝に対して約3,200万円の支払いを求める民事訴訟を起こした。映演労連でも11月13日に「私的録画録音補償金不払いに抗議する声明」を発表し、抗議を行なっている。
いま、2008年3月に「日本ビデオ倫理協会」審査部統括部長が逮捕・起訴された事件の裁判が続いている。この問題では以前、映演労連も抗議声明文を出したが、裁判では現在、刑法175条(わいせつ物頒布罪)が上位法である憲法の「表現の自由」に抵触するという違憲性が争点となり、日本映像倫理審査機構の諮問委員であり、「九条の会」呼びかけ人でもある憲法学者の奥平康弘氏が証人に立っている。映像表現の自由に関する問題として、この裁判に注目したい。
(3) テレビ業界の状況
2011年7月24日に地上波アナログ放送の停波まで残り1年半となり、総務省は地デジ対策費用として2009年度予算約600億円、さらに補正2,400億円を計上し、さらなるデジタルテレビ導入促進を目指したが、民主党政権になってからの2010年度予算では業務仕分け作業の中で地デジ関連は約半分程に削られている。民主党のマニフェストでも「地デジの円滑な移行のための環境整備を行なう」と明記しているが、総務省の思惑とは裏腹にブレーキを踏む政策方針を採っており、明確な方針が定まっていない。鳩山首相は「エコポイント」の増額などでデジタルテレビ買替え需要を高めるようなコメントをしているが、それでも「アナログ停波までの間に、1日に約25,000世帯をデジタルテレビに切り替えなければならない」(民放連・広瀬会長談)という現実もあり、アメリカ並みに「地上波デジタル難民」が出る事が予想され、民放各局からも「デジタルテレビ普及が不十分なまま停波を強行するならば、減少が著しい広告市場への影響が大きい」とする声も上がっており、延期やむなしとの考えも出始めている。
電通発表の統計によると、テレビ媒体の広告費は2005年以降4年連続で減少を続けており、2009年度は最大の下げ幅を記録し、過去3年分に匹敵する減収が記録されている。民放キー局では2008年からの2年間で約1,850億円もの収入を失う計算になるという。
広告収入の減少と同じく、視聴率の低下にも歯止めが掛からず、ここ5年間の総世帯視聴率が下がり続けているのも特徴である。特に低下が顕著なのはTBSとテレビ東京で、TBSは2009年上半期のゴールデン帯平均視聴率でついに9.5%を記録し2桁を割った。テレ東も深刻で、視聴率のポイントこそ下落幅が小さいが、率に換算すると15.5ポイントとTBSに続いて大きくなっている。視聴率首位のフジテレビも例外でなく数字を落としている。
視聴率低下の原因は若年層のテレビ離れである。生活実態の多様化やインターネットの普及などで、最近では特に10代から20代の若年女性のテレビ離れが最も激しくなっている。さらに中高年層もデジタルテレビ買い替えなどで中高年向けの番組編成を行なっているBSデジタルに流れる傾向がある。「地上波に観るべき番組がない」という声も見うけられ、視聴者層全体の数字にも影響が出始めているようである。
(4) アニメ産業の状況
●産業危機が進むアニメ業界
現在の地上波のテレビアニメ番組数は一週48本(1月6日現在。再放送番組を除く)。その内テレビ東京系列のアニメ番組が28本と半分以上を占めている。全体で深夜番組は5本に減少し、土・日曜の朝番組が17本と若干増加している。昨年10月にテレビ東京からテレビ朝日に横滑りした『スティッチ』と『怪談レストラン』は、火曜日19時のゴ−ルデンタイムで放映を開始したが視聴率は苦戦している。
テレビ局のスポンサー離れは、経済不況を背景にますます深刻な状況になっている。さらに、テレビ局の経営悪化による製作費の削減が追い打ちをかけている。4月以降のアニメ番組の編成は不明だが、東映アニメを始めトムス・エンターテイメントも製作本数が激減している。
DVDなどパッケージの売上は若干持ち直しているが、『エヴァンゲリオン新劇場版:序』『化物語』などの特定の作品に偏っている。二次使用で収支が取れない状況の中、それがテレビ深夜枠をはじめ全体の作品減につながっているようだ。この30年来地上波テレビに依存してきたアニメ産業だが、テレビアニメとその二次使用料で収支を取るという産業構造自体が崩壊しかねない状況が進んでいる。
アニメ製作各社も、劇場アニメや通信事業など、地上波テレビに代わる経営を模索しているが、有効な打開策は見つけられないようである。こうした産業危機の中、作品減によるフリースタッフの収入は減少し、生活を直撃している。また、中堅どころの製作プロダクションの経営危機も囁かれ、業界をめぐる厳しさにいっそう拍車をかけている。
●劇場アニメの好調に見られる光と影
劇場アニメでは東映の『ONE PICE FILM Strong World』が公開23日間で、動員292万人、興収36億円を超えた(1月3日現在)。これは昨年の劇場アニメ2位『エヴァンゲリオン新劇場版:破』に迫るものである(昨年の劇場アニメ興収1位は『劇場版ポケットモンスター』の46億円)。他にもハリウッドの3Dアニメ『カールじいさんの空飛ぶ家』も興収ベストテン入りしている。
一方、昨年は『ほったらけの島』や、ハリウッドとの合作である『ATOM』、正月興行の『よなよなペンギン』などのCGアニメが相次いで公開されたが、いずれも興行的に苦戦しており、CG製作というだけでは成功につながらないことを裏付けている。
劇場作品はヒットすれば高収益をあげられるがリスクも大きく、相変わらずテレビ作品の焼き直しやゲーム作品などの映画化のなかでオリジナル作品の『サマーウォーズ』が興収16億円をあげている。さらに2010年は、スタジオジブリの新作を始めとする劇場アニメの公開も多数予定されている。
●テレビ局のコンテンツ確保と進まない人材育成
フジテレビが同局のインターネット投稿サイト『ワッチミー!TV』でフラッシュアニメも含む10分以内の短編を対象にした「短編アニメ大賞」を設立した。同局のプロデユーサーを審査員に据えて、大賞にはテレビ放映を始め多メディア展開を見据えた態勢がとられるという。これらの動きは新しい才能の出口を広げることではあるが、テレビ局による著作権確保に加え、新しいソフトと才能の囲い込みを始めたとも見える。
日本動画協会が2006年から3年間実施してきた「アニメーター養成プロジェクト」は、経済産業省の支援で始まったが、今年は行われないことがあきらかになった。総括は夏以降に出されるというが、来年度以降の実施は不明である。現在の低賃金構造に手をつけないと養成してもアニメーターを続けて行けない状況は解決しない。
4. 演劇界の情勢
2009年秋以後の演劇界は、大きく二つの点で揺れ動いた。一つは、新インフルエンザの流行による観客動員の減少や学校公演の中止などである。各劇場にはかならず消毒液が置かれ、マスクをかけた観客の姿が急激に増えた。また一部では、出演者への影響も出た。商業劇場や劇団による一般公演では公演中止といった事態は無かったものの、児童青少年対象の学校公演では、生徒の発症よる公演中止または延期が相次いだ。児演協の集計によると現在までに500件(1億4097万円)が中止、524件(1億6385万円)が延期せざるを得なくなったと報告されている。延期の内164件がいまだ未定になっている。各劇団に大きな経済的被害をもたらした。この天災ともいえる事態に対して日本劇団協議会や児演協などが救済処置を求めて政府交渉を行ったが、適切な対応はなされていない。
また、政府による事業仕分け作業での文化分野への対応が大きな問題となった。「事業仕分け」が対象にした文化予算は、文化庁の芸術活動重点支援事業、芸術文化振興基金、子どものための舞台芸術体験事業、芸術家の国際交流などで、いずれも「予算要求の縮減」と結論づけられた。「子どもゆめ基金」と「子ども読書活動の推進事業」は「廃止」と判定された。文化庁はこの結果に対しての意見公募をホームページ上で行い、11万件の意見が寄せられた。そのほぼすべてが事業仕訳の結果に反対するものだった。演劇をはじめ舞踊・オーケストラなど幅広い分野から「文化振興は国の責務であり、費用対効果で考えるものではない」といった意見が多数出された。
それに対して、政府は予算案における対応として「事業仕分けの結果や頂いた御意見を踏まえ、優れた芸術活動への重点的支援については3年で2分の1まで縮減するとともに、地域の芸術拠点形成事業を2年で廃止するなどの効率化を図りつつ、引き続き各般の施策を通じ文化の振興に努めて参ります」と述べている。今後の演劇分野の助成金をはじめとする予算削減は避けられない状況にある。
そうした中で、各スタッフ会社の経営状況は一向に好転していない。4月以後に歌舞伎座改築が始まるとさらにその影響が広がることが予想される。特に藤浪小道具や金井大道具などには直接的にその結果があらわれると思われる。
商業演劇の各劇場では、年末から今年にかけて団体での観劇会が大幅に減り、不況の波がもろにあらわれている。また、各劇団も軒並み年間公演ステージ数を減らしている。全国の演劇鑑賞会の会員も減少に歯止めがかからない状況にある。学校教育の中での鑑賞教室の実施も年々少なくなっている。学費や給食費も払えない生徒も増えていっている。国民全体の貧困の拡大がそのまま演劇鑑賞の減少につながっている。
事業仕分けへの政府の姿勢を見る限り、舞台芸術の環境整備に関する行政の対応は、今までより後退の傾向にあると見なくてはならない。舞台芸術に関わる者の生活権をかけて対政府への運動を強めなくてはならない。
II. '10春闘の課題と取り組み
1. 10春闘の基本的な構え
- 厳しい経済不況と映演各社の経営危機のもとでの'10春闘は、漫然とした闘い方では“マイナス春闘”になりかねない。映演産業の危機、映演各社の経営危機に立ち向かい、雇用破壊を許さず、職場と雇用、働くものの権利を守り抜く。
- 政権交代という新たな情勢のもと、これまで阻まれてきた要求(労働者派遣法の抜本的改正、最低賃金1000円など)の実現をめざす。そのためにも鳩山政権の「国民生活第一」の公約を守らせるとともに、大企業・日本経団連の社会的責任を追及する。
- '10春闘こそ「単組ごとの春闘」から脱却して、本格的な「産別春闘」を展開する。
2. 10春闘の基本要求
- 「経済不況だから」あるいは「会社の経営が厳しいから」と自らの要求を縛らず、生活出来うる賃金・賃上げ・夏季一時金の確保を基本に職場での活発な議論を展開し、その議論を背景にした要求に確信を持って'10春闘を粘り強く闘っていく。
- 「映演労働者に誰でも10,000円以上」の産別賃上げ要求に基づいた大幅賃上げ、すべての時間給労働者に時給100円以上の賃上げを勝ち取る。
一時的な「利益減少」に惑わされず、内部留保や溜め込んだ資産、含み資産を明らかにするなど、正確な経営分析に基づいて賃上げ、一時金の抑え込みをはね退ける。 - 定期昇給カット・凍結は労働条件の一方的不利益変更であることを明らかにするとともに、定期昇給のある単組は定期昇給+ベアの賃上げを目指す。
- 産別最賃制は、月額16万円、日額8,000円、時給1,000円(=いずれもキャリア・ゼロの場合)とし、映演各企業との協定化を迫る。企業内最賃制の確立を各単組の春闘要求書に盛り込む。
- 「映演労連'10春闘要求書」とともに「産別統一労働協約案」を一層充実させ、映演産業の労働諸条件、諸制度の均一化と底上げをめざす。'10春闘では新たに「パワハラ防止規程案」を映演各社に提出し、働きやすい職場環境を求める。
- 「派遣切り」や期間契約の雇い止めを許さず、非正規労働者の雇用と権利を守る闘いを前面に掲げる。非正規労働者がまともに生活できる賃金をめざして、均等待遇、労働基準法適用、賃金・労働条件と雇用契約の改善を要求していく。また、契約社員等の社員登用制度を各企業に迫る。
- '10春闘アンケートの長時間労働などの結果を重視し、長時間労働とサービス残業の解消をめざす。またワーク・ライフ・バランスを就労の原則にさせる。
- 「労働者派遣法の抜本的改正」「最低賃金1000円」の実現を、映演労連としても'10春闘の中心課題とする。
3. 10春闘の具体的な取り組み
- '10春闘の産別統一スト権を早期に確立する。
- 各労組の要求書はできるだけ早めに提出し(2月下旬か3月初旬)、スタート良く闘う。
映演労連団交は各単組の回答が出る前に行うこととするが、今年は3月から4月上旬の開催をめざす。また各単組の団交には、必要に応じて映演労連役員が参加する。 - 2月16日の「映演労連&映画人9条の会&映演労連2010年学習集会/どうする?改憲手続き法」(講師・田中隆弁護士)、2月26日の映演フリーユニオンとの共催学習会「派遣切り・非正規切りとどう闘うか2」(講師/寺間誠治・全労連組織局長)を必ず成功させる。
また3月11日には、メンタルヘルスの問題で「映演労連第18回執行委員セミナー」(講師、場所未定)を行う。 - 3月4日の「'10春闘総決起中央行動」、3月18日の「'10国民春闘統一行動」(映演労連統一行動)、3月26日の「MIC '10春闘決起集会」、3月下旬の回答追い上げ全国統一行動、4月2日の「夜の銀座デモ」(映演労連統一行動)、4月中旬の回答追い上げ全国統一行動、5月1日「第81回メーデー」(映演労連統一行動)などに積極的に取り組み、産別統一行動を強化して'10春闘を盛り上げていく。また5月連休明けの闘いも重視する。
- 国民春闘共闘の回答指定日は3月17日だが、映演労連の一斉回答指定日は今年も現実的に考えて4月15日(木)に設定し、4月16日に産別統一スト(10分間程度/映演労連統一行動)を構えて、映演各社に一斉回答を迫る。その意思統一と準備のために、オルグ・教宣活動を積極的に展開する。また、妥結日も揃えるよう努力する。回答速報体制も強化する。
- 「労働者派遣法の抜本的改正」「最低賃金1000円」の実現に向けて、その署名活動に積極的に取り組み、全労連や国民春闘共闘委員会が提起する行動に最大限参加する。
また、映演労連としてもそれらの早期実現を求める要請書を首相、厚労省、日本経団連などに提出する。各単組も要請FAX行動に取り組む(一斉集中日を3月18日とする)。
4. リストラ「合理化」、雇用破壊に反対し、職場と権利を守る闘い
- 映演各企業の経営危機には機敏に対応し、雇用と職場の確保を第一に闘いを構築する。リストラ「合理化」攻撃に対しては、産別ストを背景に闘う。また、労基法違反、労働契約法違反、派遣法違反などの違法・脱法行為の一掃を目指す。
- 各企業ごとの経営分析・対策会議を再開する。日ごろから経営チェック能力を高めるとともに、事前協議制を確立する闘いを進める。また、経営責任を厳しく追及する。経営者の横暴を許さない闘いを強化する。
- 日活のリストラ「合理化」に対しては、さらなる経営危機も想定して、日活リストラ対策会議を中心に映演労連の最重点闘争として取り組む。
角川映画についても、新たなリストラ「合理化」策が出た場合に即応できる体制を確保する。
イマジカのリストラ「合理化」についても、社前ビラまきなどを繰り返して、イマジカ労働者の雇用と権利を守るために闘う。 5月から始まる歌舞伎座の改築については、雇用と職場確保を中心に、歌舞伎座改築問題対策会議を中心に、映演労連全体で取り組む。 - 須賀委員長が不当解雇された映演労連フリーユニオン・ラピュタ支部の闘い、東映東撮支部、アナロジカル支部、PAC、ヤスダフォトスタジオなどの闘いを全面支援する。多発するフリーユニオン争議に対応できる体制をつくる。
- MIC争議団、全労連争議団の勝利をめざして、積極的に支援する。
5. 映演産業の基盤拡充と映演文化発展をめざす闘い
- 映画への公的助成を口実にした政治介入を排除し、映画の表現の自由を守り、公正な助成を取り戻し、公的助成の後退を阻止するため、多くの映画人、映画団体と共同して闘う。
日本映画への公的助成の拡大を実現するため、改めて「日本映画振興基金」の設立を求める。 - 「映画振興要望書」や「日本映画振興基金」の背景となる運動を強化するため、日映協やアニメーター演出協会、映職連、映連などとの懇談を行う。製作・配給・興行の現場で働いている組合員を集めた部門別会議や産業政策委員会を行う。
その活動の成果を活かし、5月段階で文化庁交渉や映連交渉などを行う。また映演産業に働くものの社会的地位の向上に活かすため、厚生労働省との交渉を実現させる。さらに、民主党への要請を進める。 - 演劇政策委員会で作成した「演劇文化振興に関する要望書」を改訂し、文化庁との交渉を開始する。
- 「アニメ産業改革の提言」をアニメ関係者とアニメ業界に広め、大きな共同をめざす。フリーユニオンのアニメ労働者を拡大してアニメ支部を結成し、東映動画労組とともに「映演労連アニメ部会」を設置するなどして、アニメ分野の活動を強化する。
- 放送局の一方的な番組製作費削減や権利剥奪など、放送局と番組制作会社の不公正な支配関係の改善をめざして行動する。
6. 憲法改悪阻止と、平和と民主主義を守る闘い
- 憲法改悪阻止の闘いを10春闘の中心課題に位置づけ、それを中心に平和と民主主義を守る闘いを創意工夫して進める。
特に現行憲法の意義や、「海外派兵恒久法案」「改憲手続き法(国民投票法)」などについての学習会を重視する。また、憲法問題をテーマにした映演労連ニュースを発行する。 - 「映画人九条の会」の発展に向けてよりいっそう努力する。各単組は「映画人九条の会」への組合員加入を再度進めるとともに、会社・事業所・職場ごとに「映画人九条の会・○○」を作る。
- 今年は「日米安保改定50年」であることを重視し、平和運動推進委員会の自主的な活動を強化する。春闘前半にも反戦平和イベントを実施する。
- 今年5月3日からニューヨークの国連本部で開幕する核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けて、「核兵器のない世界を」署名を精力的に取り組む。
- 地球温暖化防止にむけて、労働組合としても行動する。DVD「地球の温暖化をとめて」を活用して学習を進める。「環境にやさしい働き方(グリーンジョブ)」を各経営に求める。
7. 組織拡大と組織改革の闘い
- 6月の厚労省組合員数調査時点で、映演労連1400名の組合員をなんとしても維持し、増勢をめざす。
- 映演労連フリーユニオンの拡大と、多発するフリーユニオン争議に対応できる体制をつくる。
- 「映演労組」への組織転換をめざす6期目の活動は、第58回大会で確認された組織転換の方式と日程に基づき、「映演労組規約案」「組合費案」「統一労協案」の作成を進める。単組へのオルグと教宣活動も強化する。
- 映演労連に専従役員を配置できる体制を本格的に検討する。
- 教宣活動を重視し、「映演労連ニュース」「映演労連ホームページ」「パソコン・ネットワーク」をより充実させる。
III. 産別スト権の確立
'10春闘では産別スト権を確立して闘う。高率での確立をめざす。
- スト権の内容 = 「映演労連'10春闘要求の実現と産別統一労協・パワハラ防止協定の締結、リストラ合理化反対、雇用破壊阻止、映演産業の危機打開のためのストライキ権」
- スト権投票期間 = 2月5日(金)〜3月11日(木)
- スト権集約日 = 3月12日(金)
IV. '10春闘の主な闘争スケジュール
月 | 日 | 予定 |
---|---|---|
2月 | 1日 | MIC労働法制学習会 (18:30〜文京シビックセンター5F区民会議室) |
4日 | フリーユニオン第3回執行委員会 (18:45〜映演労連) | |
6日▲ | 労働者性をめぐるシンポジウム (13:00〜家電会館) | |
7日● | 角川映画労組大会 | |
8日 | ふゅうじょんぷろだくと裁判判決 (13:10〜地裁526号法廷) | |
ラピュタ支部を支える会 (18:45〜映演労連) | ||
9日 | MIC 個人加盟組織交流会 (18:30〜男女平等センター) | |
12日 | 国民要求実現2.12中央集会 (12:00〜日比谷野音) | |
16日 | 「どうする?改憲手続き法」学習集会 (18:50〜文京シビックセンター5F区民会議室) | |
17日 | 第40回組織改革委員会 (18:45〜映演労連) | |
19日 | MIC 憲法民主言論学習会 (19:00〜文京シビックセンター5F区民会議室) | |
23日 | 五労組懇 (19:00〜日活) | |
26日 | 映演労連&フリーユニオン学習集会「派遣切り、非正規切りとどう闘うか2」 (18:50〜文京区民センター3D会議室) | |
3月 | 上旬 | 各労組'10春闘要求書提出 |
4日 | '10春闘総決起中央行動 | |
11日 | 映演労連第18回執行委員セミナー「メンタルヘルスと労働組合」 (18:50〜文京シビック5階区民会議室C) | |
17日 | 国民春闘回答指定日 | |
18日 | '10国民春闘統一行動、政府要請FAX行動 【映演労連統一行動】 | |
24日 | 映演労連中央闘争委員会 (18:50〜文京区民センター3D) | |
26日 | MIC '10春闘決起集会(予定) | |
4月 | 2日 | 夜の銀座デモ |
15日 | 映演労連回答指定日 | |
16日 | 映演労連一斉ストライキ (予定)、MIC争議支援総行動 【映演労連統一行動】 | |
5月 | 1日 | 第81回メーデー 【映演労連統一行動】 |