はじめに
08春闘は、私たちの要求が前進する条件が高まっているもとで闘われる。マスコミや世論も、賃上げで生活改善と消費拡大を求めている。しかし、サブプライムローンの破綻や原油高、株価の一斉下落、食品・生活用品の値上がりなどで、景気の先行きが不安視されている。楽観はできない。
“経営者の横暴を許すな!”“映演産業からワーキングプアをなくそう!”“本格的な産別春闘で要求を闘い取ろう!”を合言葉に、本気で要求を闘い取る春闘を展開しよう!
I. '08春闘をめぐる情勢
1. 政治・経済の情勢
昨夏の参院選で大敗した安倍首相は突然政権を投げ出し、福田内閣が誕生した。衆参ねじれ国会のもとで、昨年11月には国民世論と乖離した密室の「大連立構想」が明らかになって、民主党も批判を浴びた。
ねじれ国会では、薬害肝炎救済法が成立するなど国民の意思が政治を動かす一面も見せたが、翌日の1月12日には新テロ特措法の再議決を強行するなど、暴挙も繰り返している。
労働者の賃金は9年連続で下がり、年収200万円以下のワーキングプアと言われる労働者は1023万人に達した。非正規雇用労働者は全労働者の33%にもなり、女性・青年では過半数を超えている。小泉・安倍・福田と続く自公内閣による「構造改革」と大企業の横暴がもたらした格差と貧困の広がりである。
08年の通常国会は「ガソリン国会」と言われて、ガソリン税暫定税率の存廃が焦点になっている。福田内閣の「地球温暖化対策のためにもガソリン税の維持が必要だ」などという国民を愚弄した主張には、開いた口がふさがらない。どんどん道路を作って車を走らせるための税金なのに、なにが温暖化対策か。中国製冷凍食品の農薬問題などから食の安全や日本の食料自給率(39%)も問題になってきたが、解決の糸口が見えない年金問題とともに、すでに内閣支持率が30%台に急落した福田政権への批判がいっそう高まってきた。
またここに来て、食品や生活用品がいっせいに大幅値上がりを始め、国民生活を直撃している。その一方で大企業は、5期連続して大儲けを更新している。トヨタやキャノンなどの主要企業の純利益と内部留保は軒並み過去最高水準を記録している。国民の怒りは、大きく膨らんでいる。
アメリカは今年11月の大統領選挙に向け、共和・民主の予備選挙が行なわれている最中である。特に上下院過半数を占めている民主党は、ヒラリー・クリントンとバラク・オバマとの一騎打ちの様相を見せ、報道が過熱している。アメリカ国内でも、イラク戦争の閉塞感から解放されたい国民世論の気運や、サブプライムローン問題に始まる国内経済の後退があり、既存の社会の枠組みから脱却したい国民感情が高まれば、政権交代、そして女性大統領もしくは黒人初の大統領が誕生か、と注目されている。
2. '08春闘をめぐる経済界、労働界の動き
*日本経団連の動き
「ホワイトカラーエグゼンプション」導入を求める声明や、労基法違反である偽装請負が明らかになるなど、労働界にとって悪名高い経団連会長のキャノン・御手洗富士夫会長だが、継続する好景気の中において、一部のグローバル企業の空前の利益増大と、それに対して労働者の格差増大や社会の貧困を生み出すことがますます社会問題化していることに対しても、一切悪びれない様な態度を見せている。
07年12月10日の記者会見では、「全体として企業の成績が良くなったのは事実。働く人に配分する状況にある」として、業績の好調な企業に対して、賃上げを容認する考えを示した。しかし現状において儲かっている企業はキャノンやトヨタなどの一握りの大企業であって、大企業からのコスト削減を求められていることにより、殆どの中小・零細企業が困窮している状況があるのである。そのことで「勝ち組・負け組」企業を明確にすることで、横並びの賃上げを一方では否定し、さらにお得意の「国際競争力の維持」を持ち出して、賃上げによるコスト増を牽制している。
08年1月23日、春闘スタートの高木連合会長との定期懇談会では、アメリカのサブプライムローン問題に端を発す世界同時株安や原油高の影響を持ち出し、早くも全体の賃上げに消極的な考えを示した。
*全労連、国民春闘共闘委員会
全労連と国民春闘共闘委員会は、「なくせ貧困、ストップ改憲! つくろう平和で公正な社会」をスローガンとする08春闘方針を決定、「08春闘は、労働者・国民のたたかいで要求前進の展望を切り開く条件が高まっているもとでたたかう」としている。
格差と貧困是正をめざした賃金底上げと、働くルール確立のたたかいを展開し、生計費原則にもとづくベア要求を積極的に掲げた産別統一闘争の強化を目指す。
具体的要求としては、「誰でも月額1万円、時間給100円の賃上げ」「月額15万円、日額7500円、時間額1000円以上の企業内最低賃金の実現」「非正規労働者の均等待遇の実現」などを掲げている。
また、雇用の安定、労働時間短縮を重視した「働くルール確立」の運動を強化し、「新働くルール署名」に取り組む。全労連は「非正規雇用労働者センター」を発足させる。
憲法闘争では、「憲法500万署名」の達成、「9条改憲反対アピール」の集約、「憲法網の目キャラバン」の実施などを掲げている。
*連合
連合は08春闘方針として、ベースアップの統一要求を見送った上で、実質1%以上の配分を要求、「賃金カーブ維持分」を維持した上での賃金改善を求めている。また、非正規労働者の処遇改善やワーク・ライフ・バランス(労働と生活の調和)の実現に向けた労働時間の短縮、残業代割増率の引き上げなどを春闘のテーマに掲げている。
2月1日の「闘争開始宣言中央集会」で高木会長は、「個人消費拡大のため賃上げの必要性」を訴えた。
*MIC
MICの春闘は、3月13日にMIC08春闘決起集会、28日に夜の銀座デモ、4月4日にMIC争議支援総行動と、例年通りの春闘行動を組んでいる。
3. 映画・映像産業の情勢
(1) 映画産業の情勢
1月31日、日本映画製作者連盟が発表した2007年全国映画概況によると、観客動員は1億6319万3千人(前年比99.2%)、興行収入は1984億4300万円(前年比97.8%)となっており、いずれも昨年実績を下回った。全体の公開本数は810本(邦画407本、洋画403本)、邦画:洋画の興収比率は、47.7 : 52.3で、洋画が再逆転した。
2007年の興行成績上位作品は、「パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド」WDS(109億)、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」WB( 億)、「HERO」東宝(81.5億)、「スパイダーマン3」SPE(71.2億)、「硫黄島からの手紙」WB(51億)、「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール」東宝(50億)、「西遊記」東宝(43.7億)、「武士の一分」松竹(41.1億)、「トランスフォーマー」UIP(40.1億)、「ダイハード4.0」FOX(39.1億)、「恋空」東宝(39億)など。邦洋興収10億円以上作品51番組で、1488.7億円(全興収比75%)を占めている。
洋画についてはシリーズもの頼み、メジャー系のヒット作の偏りという傾向が顕著であり、独立系洋画配給会社から大ヒットが生まれなくなって久しい。
邦画では、東宝が絶対的な安定性を示している。邦画上位10作中9作が東宝配給であり、大半の作品がTV局が幹事会社、もしくは共同幹事会社として製作に携わったものである。高視聴率のドラマを映画化し、公開直前のドラマ再放送、バラエティー・情報番組への大量露出などによってヒットに繋げるという構図のなかで東宝は一人勝ちの様相を見せ、年間興行収入の記録を更新した。ところが、マーケット全体の拡充にはつながらない。全体的な興収は横這いから逓減へ。慢性的な寡占状態が、徐々に市場を冷え込ませ始めている。ちなみに、邦画興収10億円以上の29作品でキネマ旬報ベストテンに入ったのは、「それでもボクはやってない」の1本しかなかった。
スクリーン数はシネコン増加と単館閉鎖の中3221スクリーン(前年+159スクリーン)となった。新規開業は263スクリーン。閉館はWMC石巻、高槻シネマR170など。シネコン以外の閉館は100スクリーン前後と見られる。
シネコン淘汰の時代に入り、スクリーン増に伴わない興行収入、家賃高などでサイトの収益性が圧迫されている。1スクリーン当たりの興行収入は6200万円前後(前年比約400万円減)にまで下がっている。一方東宝グループでは3月の各興行会社統合を見据えながらも、TOHOシネマズ「浜大津アーカスシネマ」の (有)アレックスへの営業権委譲など、対策が必要な地域のシネコンの経営を、地元の興行者に委ねる方向性を進めている。
業界内各社の離合集散は07年も続いた。UIPジャパンは07年6月18日、年内を以て解散、パラマウント映画は新生パラマウントジャパンが、ユニバーサル映画は東宝東和が配給を担うことになると発表した。全洋労UIP支部とUIPジャパンは雇用継続・退職条件を巡って争議状態となり、会社解散後の現時点でも解決に至っていない。角川グループでは、07年3月1日付で「角川ヘラルドピクチャーズ」から「角川映画(株)」に社名変更。黒井社長は相談役に井上泰一氏が新社長に就任した。また同日付で「ヘラルド・エンタープライズ(株)」は「(株)角川シネプレックス」に社名変更している。また、5月1日には博報堂DYPが東芝エンターテインメント(株)を買収、6月1日付で「(株)ショウゲート」に社名を変更している。その他4月東急レクリエーションとユナイテッド・シネマが包括提携したのに続き、12月には東レク+UC+ティ・ジョイ+WMの4社番組編成とデジタルシネマで提携。また東レクは配給事業に(ゴー・シネマ)、ティ・ジョイが企画製作事業(ラテルナ)に新規参入するなど新たな動きがあった。
撮影所関係では、松竹の新撮影所建設は一向に進展していない。松竹京都映画は立命館大学との提携により施設の整備を本格化させている。東映京撮はテレビ朝日のレギュラー時代劇打ち切りに加え、正月映画の不振があり厳しい状況にある。日活は土地の権利問題と施設の老朽化が喫緊の課題となっている。
映像文化への公的支援は減少の一途を辿っている。文化庁の20年度予算(案)では、「『日本映画・映像』振興プランの推進」の減少傾向に歯止めが掛からない。トータルで1.72億円減の20.5億円。うち「魅力ある日本映画・映像の創造」は前年より1.63億円減の6.51億円となり、「日本映画・映像の流通の促進」も7300万円減で3.85億円。「国内上映・映画祭の支援」も4900万円減って2.17億円となった。映画の状況と反比例した予算組みをしており、日本政府の映画文化に対する浅さが伺え、公的支援のいっそうの拡充が強く求められる。
その他、映画盗撮防止法が07年8月30日より施行、盗撮行為の罰則が厳しくなった。デジタル化が進む中で、ポスプロ段階からの流出防止を強化するなどの対策はまだ残されている。
全米脚本家組合(WGA)はネット・携帯電話配信の著作権料を巡って、業界団体・全映画テレビ製作者協会(AMPTP)との交渉が折り合わず、07年11月5日よりストライキに突入した。WGA側の現時点でも要求は、(1) インターネットなどニューメディアの二次使用料を、スタジオの収入の2.5%(現行取り決めなし)とする。(2) リアリティー・ショーやアニメの脚本家について、著作権の確立及びWGAとAMPTPとの間の契約の適用。──の2点。
AMPTPは映画俳優組合(SAG)と全米監督組合(DGA)との契約更新を6月に控えているが、DGAとはインターネット配信の配分を現行の2倍とすることなので暫定的な合意に達したと1月17日に発表している。一方1月27日のSAG賞授賞式で、俳優たちの多くは銀と黒のWGAピンを身につけ、舞台上や記者会見場で、ストライキを支持する姿勢を見せている。
スト突入から3ヶ月が経過した現在、世論は概ね組合側に好意的ではあるが、TVシリーズの新作・再放送の中止など、関係各方面に大きな影響を及ぼし始めている。ロイター通信によると、ロサンゼルス地域だけで製作中止になったドラマ、コメディーは約60に上ると言う。
またゴールデングローブ賞の授賞式中止に続き、アカデミー賞の授賞式開催も危ぶまれる他、更に長期化した場合には、日本の興行マーケットにも多大な影響を及ぼすことは必至で、来年夏以降の大作を当て込んだ数百スクリーン規模で穴があくという最悪の事態も懸念される。
(2) テレビ業界の状況
いまや映画産業のヒット作をほぼ手中にしている放送業界であるが、彼らも決して安泰ではない。総務省は、民放テレビ局の県境超えでの再編方針を出し、免許制度見直しを進めているが、背景にはデジタル放送への完全以降とデジタル化の資本投下に耐えられない地方局との現実がある。統廃合が予想される地方局に対し、ネットを組むキー局は、それぞれの権益を現状のまま維持できるのか。絶対視聴率も低下しているなか、放送業界全体の再編も進むかもしれない。
(3) 映像ソフト業界の状況
日本映像ソフト協会07年11月時点までの速報によると、ソフト全体の売上げは2,816億円で前年比96.6%、うちDVDソフトの売上げは前年比98.1%(ともに1〜11月累計前年比)と、逓減傾向に歯止めはかかっていない。VHSに成り代わってDVD市場が成熟期を迎えたとも言えるが、ハイビジョンテレビやブロードバンド(BB)の普及が増大する状況を考慮すれば、DVD市場の終焉はそう遠い話ではない。また、売上げの3割強を占めるレンタルの店舗数も最高時90年の1万5千店舗から、1月発表の実数で約5千店舗と半分以下に落ち込んでいる。今後のメディア環境次第では映像パッケージ市場全体がCDと同じ道を歩む可能性もあるだろう。
次世代メディアについてはブルーレイ(BD)とHD-DVDの二重規格問題で注目される中、年明け草々に紆余曲折を経てきたワーナーが遂にBD支持を発表。その直後には「パラマウントもHDからBDへの支持に」との報道がされるなど、メジャー洋画の規格はほぼBDに固まった。しかし、世界規模の市場では依然としてCD-R、次いでDVDが圧倒的なシェアとなり、次世代メディアの台頭はハード普及が伸び悩んでいることから、数年先になると予測されている(日本記録メディア工業会)。
次世代メディアにしてもBBにしても、ハリウッドで生じているストライキ問題は見過ごせない。著作権問題である。国内でも様々な議論がされているが、たとえばデジタル放送のコピーワンス緩和として急浮上している「ダビング10」への移行問題は、録画機に課せられている私的録画録音補償金の廃止を求めるメーカー側と、継続を求める映連や芸団協など権利団体との間で未だに一致を見ていない。
パブリックドメイン(PD)では司法判断として、07年12月18日の最高裁で1953年までの公開作品は50年間、54年以降の作品については70年間の保護期間がパラマウントの敗訴で確定した。一方、黒澤監督作品について争われていたケースでは、公開後50年の保護期間を定めた1971年の法施行以前に公開された作品については、旧法である監督没後38年の保護期間が東京地裁で判断されている(現在控訴中)。監督著作権を製作会社に帰属させることを狙った71年の法改正だったが、逆に旧法を適用させることでPDに歯止めをかけるという皮肉な状況が生まれている。
映画盗撮防止法は07年8月に施行となったが、違法コピーやそのネット上での流通を食い止める法的措置についても、ダビング10同様に議論が沸騰している。本格化した「アクトビラ」によるVODサービスなど、BB環境は急速に整いつつあるが、権利問題を置き去りにしたままでは映像産業の飛躍はない。
(4) アニメ産業の状況
2000年以降増加していた地上波テレビのアニメ番組だが、06年の一週100本を超える制作本数をピークに、07年春の番組改編で95本、秋の改編では74本と、半年で21本のアニメ番組が姿を消した。この傾向は今年に入っても変わらず、08年春の番組改編ではさらに激減することが予想されている。
世帯視聴率が低迷しアニメ番組からのスポンサー離れが起こる中、この数年DVD販売に支えられてきたアニメ業界だが、一昨年からのDVD販売の不振が引き金となり急激な番組の減少を引き起こした。また、多チャンネル化の中での視聴者ニーズの変化も、地上波アニメ番組の減少に拍車をかけている。
大手アニメ制作会社もこうした変化に対応すべく、東映アニメーションやバンダイビジュアル、角川グループホールディングスなどが、積極的にインターネットでのアニメ番組配信ビジネスに力を入れだした。しかし、こうした配信ビジネスは、多くのコンテンツを保有している企業だから可能なビジネスであり、過去の作品を切り売りするだけの、追加的なものにとどまるのではないかといわれている。
昨年10月、アニメーター・演出家の協同組合(JAniCA)が設立された。本格的な活動は今年に入ってからということのようだが、フリーで働くアニメーターにとって、情報の交換と産業に対する意見をアピールする場としての期待は大きい。
ビデオ・オン・デマンドやワンセグ放送など、メディアが多様化するとともに、新たな著作権ビジネスも発生している。演出、監督はもちろんのこと、作画監督やキャラクターデザイン、美術デザイナーといったスタッフにも強い創造性があることから、アニメーターの著作権についての要求は年々強くなってきている。著作権についての業界のルール作りが急がれている。
アニメ産業における深刻な原画マン不足については、動画協会が経済産業省の支援を受け「アニメーター養成プロジェクト」を始め、各制作会社でも自社での養成に乗り出したようだ。しかし、演出、作画監督、美術監督などのメインスタッフの囲い込みはあるものの、その他のスタッフは、相変わらずの低賃金構造であり改善される気配もない。
今後の、制作本数の激減による制作会社や下請け会社の倒産、遅配や解雇などの問題が出る可能性もある。日本の文化、国際的なコンテンツビジネスに相応しい産業構造の転換が求められている。
4. 演劇界の情勢
昨年から今年にかけての演劇界は、商業演劇・新劇・小劇場・児童青少年演劇・古典演劇などで様々な模索が始まっている。劇団四季や松竹歌舞伎は一定の安定を見せているが、劇界の多くは不安定な状態が続き、今後の方策を模索している。特に独立劇団の多くが経営の悪化に苦しんでいる。舞芸傘下の各劇団も観客数減少の中、苦しい正月を迎えた。
*商業演劇界の動き
この間の商業演劇界の動きで一番波紋を呼んだのは、なんといっても歌舞伎座改築問題である。その後の経過では、松竹永山会長の死去があり、一時動きが止まっているようだが、新橋演舞場での歌舞伎公演が増えるなどの変化は進んでいる。また、大手芸能事務所による劇場確保という新しい動きも出ている。コクーン歌舞伎、パルコ歌舞伎、新橋演舞場での唐沢公演など目先を替えた企画への変化が多くなってきている。
天王洲アイルにある旧アートスフイアが「銀河劇場」と名を変えてホリプロの運営になった。長い歴史を持つ劇団昴の三百人劇場が一昨年12月で閉館取り壊しになった。この間海外のミュージカルなどの貸し館が増えていた新宿コマ劇場が、来年いっぱいで自主公演をやめるという話もある。
マッスルミュージカルは、団員に対する一方的な出演条件の切り下げなどで人気にかげりが見え、シルク・ドゥ・ソレイユは今年10月、東京ディズニーリゾートに専用常設劇場「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」を開業する。
行政の持つホールで活発な自主公演を進めているところもある。世田谷パブリックシアターおよびシアター・トラムや北千住のTHEATRE1010、静岡芸術劇場などが独創的な自主企画に積極的に取り組んでいる。また、大阪サンケイホールがリニュウアルオープンした。
また、有楽町の旧「芸術座」の改築が終わり「シアター・クーリエ」として昨年暮れ開場し、杮落し公演を行った。支配人に若い女性を据えるなどして、新しさをアピールしている。
この正月は、松竹の歌舞伎公演が集中的に行われた。歌舞伎座、新橋演舞場、浅草公会堂、国立劇場、大阪松竹座と五座が歌舞伎を上演した。いかに歌舞伎に頼り切っているかが表れている。
*現代演劇の動き:劇団協加盟劇団ほか
日本劇団協議会加盟劇団は現在86団体が加盟し、大都市での自主公演を軸に様々な活動をしている。特に全国演鑑連での地方巡演は、どの劇団も経済的に大きな支えとなってきた。しかし、その公演数は減少傾向にあり、2000年に46劇団82作品1911ステージあったのが、2006年は40劇団59作品1729ステージになっている。九州、中国、静岡などの一部を除いて全体には会員数の減少がここに反映している。
*児童青少年演劇の動き:児演協加盟劇団ほか
日本児童・青少年演劇劇団協同組合(児演協)は現在72劇団が加盟し、おやこ劇場・こども劇場、学校公演などを中心に活動している。学校の週休2日制や少子化、文科省予算の削減などの影響で全体の公演数は大きく減少してきている。特に学校単位の鑑賞教室の現象は、各劇団に痛手を与えている。
II. '08春闘の課題と取り組み
1. 大幅賃上げ、高額夏季一時金の獲得、諸要求実現の闘い
08春闘は、本格的な“産別春闘”で要求実現をめざす
- 08春闘は「単組ごとの春闘」から脱却して、本格的な「産別春闘」を展開し、要求実現をめざす。
- 「映演労連'08春闘要求書」を充実させ、賃上げ以外にも産別春闘の目玉になるような共通課題(今年は産別最賃と均等待遇)、共通要求を単組とともに掲げ、産別と単組の両面から闘う。
- 映演労連団交を各単組の賃上げ闘争とリンクさせ、各単組の回答が出る前に行う。必要に応じて単組団交に映演労連役員が参加する。各労組の要求書はできるだけ早めに提出し(3月上旬)、スタート良く闘う。
- 映演労連の一斉回答指定日を4月16日(水)、映演労連一斉行動日を4月18日(金)に設定し、4月16日に回答を出すよう各経営に迫る。また、妥結日も揃えるよう努力する。
- 08春闘の共通課題実現を含めて「産別統一スト権」を確立し、スト権の行使を本格的に検討する。
- 4月18日以外にも、産別統一闘争を強化するため、2月13日「なくせ貧困!2.13総行動」、3月13日「08国民春闘統一行動」「MIC'08春闘決起集会」、3月28日「夜の銀座デモ」、4月18日「映演労連一斉行動日」、5月1日「第79回メーデー」などを【映演労連統一行動日】と設定し、産別統一行動を強化して闘う。また、職場組合員と一体となった闘いをめざす。
- 全労連、国民春闘共闘委員会に結集して闘う。予想される総選挙には、格差と貧困を拡大してきた「構造改革」路線と、改憲路線転換のチャンスと捉え、組合員に争点を訴え、主権者としての権利を行使することを呼びかける。
08春闘の基本要求
- 「映演労働者に誰でも10,000円以上」の産別賃上げ要求に基づいた大幅賃上げ、すべての時間給労働者に時給100円以上の賃上げを勝ち取る。各労組は、“要求は闘い抜いて勝ち取る”という気概で要求獲得をめざす。
- 「映演産業からワーキングプアをなくそう!」をスローガンに、非正規労働者の雇用と権利を守る闘いを前面に掲げる。非正規労働者がまともに生活できる賃金をめざして、均等待遇、労働基準法適用、賃金・労働条件と雇用契約の改善を要求していく。特に劇場労働者、アニメ労働者の労働条件改善に取り組む。
- 産別最賃制は、月額16万円、日額8,000円、時給1,000円(=いずれもキャリア・ゼロの場合)とし、映演各企業との協定化を迫る。企業内最賃制の確立を各単組の春闘要求書に盛り込む。
- 夏季一時金の要求額は、「生計費原則」をもとに各労組で組合員が確信を持てる要求を作り上げ、粘り強く闘って高額生補金獲得をめざす。
- 「08春闘要求アンケート」を生かすとともに、映演各社の賃金・労働条件データを集め、それを持って闘う。
2. 憲法改悪阻止をめざす闘い
- 憲法改悪阻止の闘いを08春闘の中心課題に位置づけ、創意工夫した運動を展開する。各地区・単組で学習会を開き、一人ひとりがワッペン、署名、政治家やマスコミへのハガキ運動、集会・デモへの参加など、九条改憲に反対する意思をさまざまな形で表明する。
全労連の改憲反対署名の目標(映演労連は組合員一人当たり5筆)達成を追求する。 - 「九条の会」アピールを映画人、映画ファン、映画関係団体の中に広めるなど、「映画人九条の会」の発展に向けてよりいっそう努力する。各単組は「映画人九条の会」への組合員加入を再度進めるとともに、会社・事業所・職場ごとに「映画人九条の会・○○」を作る。
- 全国の「九条の会」、マスコミ関連九条の会連絡会、「憲法改悪反対共同センター」などと連携し、憲法改悪反対の全国的なネットワークを広げる。
- 5月3日「憲法記念日」行動、5月4日〜6日「9条世界会議」に参加する。
3. 「合理化」に反対し、職場と権利を守る闘い
- 多発する映演関連争議の早期勝利をめざして全力を傾注する。
- 映演労連フリーユニオン・ラピュタ支部の闘いを全面支援し、裁判や支援の輪で社長の暴力をやめさせ、安心して働ける職場をめざす。
- 歌舞伎座の建て替え(予定)による雇用危機に対しては、松竹労組、歌舞伎座事業労組、歌舞伎座舞台労組、歌舞伎座労組、そして松竹労連(オール松竹)を雇用確保の闘いの土台にし、映演労連全体に運動を広げる。
- 資本の勝手なM&Aを許さない闘いを進める。また、MIC争議団、全労連争議団の勝利をめざして、積極的に支援する。
- 重大なリストラ「合理化」攻撃があった場合には、緊急に産別統一スト権を立てて闘う。日ごろから経営チェック能力を高めるとともに、事前協議制を確立する闘いを進める。また、経営責任を厳しく追及する。「不当労働行為」には機敏に反撃する。
- ホワイトカラー・エグゼンプションなど更なる労働法制の大改悪(労働ビッグバン)については、全力で反対する。
- 28期中央労働委員の不公正任命取消訴訟の最高裁闘争を支援する。第30期の公正任命をめざす。
4. 映演産業の基盤拡充と文化発展をめざす闘い
- 映画振興に関する各要望事項の背景となる運動を強化する。映職連各団体などとの懇談も開始する。製作、配給、興行の現場で働いている組合員を集めた部門別会議や、産業構造変化の分析学習会も行う。
- 前項の活動の成果を活かし、5月段階で文化庁交渉や映連交渉などを行う。また映画スタッフとアニメーターの活動実態調査の結果を映画・映像に働くものの社会的地位の向上に活かすため、特に厚生労働省との交渉を実現させる。
- 日活撮影所の存続・リニューアルについては、日活経営陣との協議を申し入れる。松竹新撮影所建設については、都労委合意に基づいて新撮影所建設の早急な着手を要求する。
- 「2007年演劇文化振興に関する要望書」に基づいて、文化庁との交渉を開始する。
- 「アニメ産業改革の提言」をアニメ関係者とアニメ業界に広め、大きな共同をめざす。「日本アニメーター・演出協会(JAnicA)」とも接触を試みる。
- 民放キー局要請行動については、当面オブザーバー参加とする。
- 「アピール/日本の時代劇文化を守ろう!」賛同署名を推進する。
- 歴史の真実を偽り、社会の現実をねじ曲げて国民の目を惑わす軍国主義的、右翼的な映画・映像・演劇については、毅然たる姿勢で批判して行く。
5. 平和と民主主義を守る闘い
- 法改悪阻止の闘いを中心に、平和と民主主義を守る闘いを進める。
- 映演労連・平和運動推進委員会の自主的な活動を強化する。
6. 組織強化と拡大の闘い
- 「映演労組」への組織転換をめざす「組織改革委員会」は、1月末から「組織改革アンケート」に取り組み、80%以上の集約をめざす。
- いくつかの組合でワーキングチームを作り、「映演労組」化の具体的検討を開始する。同時に、単組の専従役員に頼った活動から脱却するため、財政強化策も検討を開始する。
- 6月の厚労省組合員数調査時点で映演労連1400名の組合員をなんとしても維持し、増勢をめざす。
- 非正規雇用労働者の加入に向けて、単組規約、労協、ユニオンショップ協定などを見直す。
- 組合に入っていない契約社員、アルバイト労働者、フリー契約者、管理職労働者を「映演労連フリーユニオン」に組織し、08春闘後に100人の組合をめざす。サポーター(他労組との二重加盟者)も組織する。
- 映演労連内部の連帯強化をめざし、各労組間の交流会や学習会、映演労連青年部活動、文化部活動、平和運動などへの参加を強化する。映演労連女性連絡会の活動を復活させる。
- 映演労連傘下の全新入組合員を対象にした学習会を2月29日(金)18:50より、文京区民センター3C会議室で行う。また4月18日(金)18:50より、文京シビックホール会議室で映演労連第16回拡大執行委員セミナー「映画の著作権はどうあるべきか」を行う。
- 「映演労連ニュース」の年間10号を実行する。
III. 産別スト権の確立
08春闘では産別スト権を確立して闘う。高率での確立をめざす。
- スト権の内容 = 「08春闘勝利、産別最賃と均等待遇など映演労連08春闘要求の実現、映演労働者の生活と雇用を守り、映演産業の危機打開をめざすためのストライキ権」
- スト権投票期間 = 2月18日(月)〜3月14日(木)
- スト権集約日 = 3月17日(月)
IV. 闘いの主なスケジュール
月 | 日 | 予定 |
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2月 | 13日 | 08春闘中央統一行動/なくせ貧困2・13総行動 (12:00日比谷野音、霞ヶ関総行動、14:30デモ) 【映演労連統一行動日】 |
19日 | 第25回組織改革委員会(18:45〜映演労連) | |
20日 | MIC第4回幹事会 (15:30〜出版労連会議室) | |
29日 | 映演労連新入組合員学習交流会 (18:50〜文京区民センター3C) | |
3月 | 上旬 | 08春闘要求書提出 |
12日 | 全国回答指定日 | |
13日 | 国民春闘全国統一行動、MIC08春闘決起集会 (18:30〜牛込箪笥区民センター) 【映演労連統一行動日】 | |
29日 | 夜の銀座デモ (18:30〜銀座公園) 【映演労連統一行動日】 | |
4月 | 4日 | MIC争議支援総行動 |
16日 | 映演労連回答指定日 | |
18日 | 映演労連一斉行動日、第16回拡大執行委員セミナー (18:50〜シビックホール会議室) 【映演労連統一行動日】 | |
23日頃 | 国民春闘全国統一行動 | |
5月 | 1日 | 第79回メーデー 【映演労連統一行動日】 |
3日 | 「憲法記念日」行動 | |
4〜6日 | 9条世界会議 | |
23日 | 全労連争議支援総行動 |