公共ホール・劇場の労働災害を秘匿することなく、
再発防止の優先を求める声明
本年2月18日、独立行政法人日本芸術文化振興会(略称「芸文振」、河村潤子理事長)らが東京都中央労働基準監督署より、墜落防止措置を怠ったとして書類送検されていたことが分かった。
報道等によると、入社1年目の労働者が高さ2.85mの移動式足場から墜落し、重度の障害が残ったという。4月には東京簡易裁判所が芸文振と現場責任者に有罪(罰金)の略式命令を下した。
この労働災害は2020年12月29日、芸文振が運営する国立劇場(千代田区)で発生していた。可動式の作業台に荷物と労働者を載せたまま移動させただけでなく、その際に手すりを外していたことから、労働者が墜落。2mを超える高さにもかかわらずフルハーネスなど墜落制止用器具の装着もなかったことから、結果としてコンクリートの床面に頭部を打ちつけ重傷を負ったものである。
そもそも厚労省通達等によれば「移動式足場は人を載せて移動させてはならず、仮に固定してあったとしても、手すりほか墜落防止の措置を取らない限り作業させてはならない」と定められている。つまり国立劇場の事故は明白な管理者責任に帰する過失であり、容易に防げたはずの事故であったと考えられる。
ところが芸文振は、災害発生から1年余り、この墜落事故を公表してこなかった。公共ホールや劇場を司る運営事業者として、いかなる理由があろうとも、書類送検を受けるまでこの重大事故を秘匿するといった行為は是認されるものではない。
国立劇場の事故の直前となる同月12日には、松戸市文化振興財団が運営する森のホール21(千葉県松戸市)でもパシフィックアートセンター(略称「PAC」、及川正勝代表)の従業員が、作業中の道具せりから墜落し亡くなっていた。この件についても松戸市ならびに運営委託先のPACは、公共ホールにおける重大事故にもかかわらず直後の公表を避けた。事故直前までPACは当該労働組合に対して「身を乗り出すような作業はない」ことを理由に、組合が求める高所作業の安全確保を拒否していた。その間違いを認め猛省し、事故後直ちに各公共ホールや劇場に再発防止の呼び掛けを行っていれば、17日後に発生した国立劇場の墜落事故は防げたかもしれない。
しかしPACは事故の公表を求める組合要求に応えるどころか、会社の安衛法違反を申告した当該組合の委員長を雇い止めするという暴挙に出ていた。PACが初めて事故を公表したのは、委員長を雇い止めした翌月の21年4月である。
都内の劇場を管轄する中央労基署は、芸文振の書類送検を経た上で本年3月1日付「劇場内作業における墜落・転落災害防止対策の徹底について(中央基署発0301第7号)」を発出したが、事故は1年以上も前に生じていたのである。
公共ホールや劇場といった市民に開かれた文化施設で生じた重大な事故が秘匿されたまま、私たちの目に触れることなく水面下で処理されていることに愕然とする。
直ちに事故を公表していれば防げたはずの労働災害が繰り返されることのないよう、関係する公共ホール、各劇場、そして運営に携わる全ての事業者に呼び掛ける。事故の秘匿や隠ぺいを行うことなく、全ての芸術文化に携わる労働者の命と安全のために、再発防止を最優先とした対応を求めるものである。
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