インボイス制度の施行中止を求める声明


 私たち映演労連は、応能負担の原則を逸脱する消費税には徹底して反対の立場を示してきた。しかし政府は、低所得であるほど税負担割合の高いこの消費税を、僅か8年の間に2度も引き上げたうえ、2023年10月には免税事業者を標的にしたインボイス制度(適格請求書等保存方式)を施行させようとしている。納税者の理解も納得も一向に進んでいないこのインボイス制度は、事業者同士で消費税を押し付け合う制度であり、取引上の立場の弱いものほど深刻な影響を受ける不公平税制と言える。
 映画・演劇・アニメ産業は年収1000万円に満たない個人も含む多くの小規模事業者(=免税事業者)が支えている側面があり、コロナ禍による深刻な影響が拭えない中でのインボイス制度の施行は、無謀だと考える。
 また、免税事業者に残された選択は引き続き「免税事業者を維持する」か、「課税事業者となる」ことで実質的な増税(年平均15.4万円=財務省試算)に耐えるしかないが、コロナ禍の影響や事務作業の負担を考慮すれば、当面は対象者の多くが「免税事業者を維持」すると考えられる。「本名の公開」などインボイス制度の問題点が追及されている現状を踏まえれば、政府の試算以上に引き続き免税事業者を維持する人は増えるのではないか。この場合、経過措置があったにせよ、今度は発注側、取り分け免税事業者と直接取り引きする中規模の下請・孫請け企業の税負担が更に顕在化することにもなる。
 政府はインボイス制度によって2480億円の増収を目論むというが、受注側である小規模事業者と、発注側である会社、その双方の税負担があっての数字であることを忘れてはならない。そして経過措置という名のタイマーは、やがて双方の負担の押し付け合いを激化させることになる。結果、立場の弱い小規模事業者が廃業も含めて負担を背負う立場に追い込まれるであろうことは、欧州の前例からも容易に推測できる。
 私たちが従事する映画・演劇・アニメ産業は、大企業だけで成立している産業ではない。俳優、監督、アニメーター、演出家、脚本家、撮影や照明スタッフなどなど、多くの個人や中小プロダクションといった小規模事業者と力を合わせることで作品は完成し、世に送り届けられてきた。政府が目論む適格請求書等の介入による相互牽制作用とは、事業者間の互いの監視を促進させ、免税事業者の市場からの追い出しを狙ったものに他ならない。このままでは、互いの関係性や信頼によって培われてきた作品創造の根幹が破壊されかねない。
 作品の直接的な作り手と言っても過言ではない免税事業者への負担増は、映演文化産業の基盤をも揺るがしかねない無謀な施策であり、憲法に定める文化権の享受という点でも、私たちはインボイス制度の施行中止を強く求める。


以上
2022年08月22日
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