特定秘密保護法案に反対する特別決議
私たち映演労連は、安倍政権が2013年9月3日に公表した「特定秘密保護法案」に対し、絶対反対を表明する。この法案の目的は「海外で戦争する国」づくりを進めることにあり、日本国憲法が柱とする「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」のいずれも蔑ろにするばかりか、私たち映演労働者の創作活動にも重大な影響を及ぼすものである。
いまなぜ安全保障のために新法を制定して、市民の自由や権利を制限するような秘密保護法制を確立する必要があるのか。法案の「趣旨」としては「我が国の安全保障に関する事項のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要」と書かれている。しかし、必要性の明確な理由は示されていない。
法案の内容を見ると、防衛や外交に関する四分野についての幅広い事項を「行政機関の長の」判断で秘密の対象とすることができるとあり、上限5年の有効期間も設けられているものの、これも行政機関の長の判断により期間の更新も可能とされているので、事実上どんなことでも、いつまでも秘密の指定が恣意的に可能な仕組みであり、いくらでも拡大解釈が可能となっている。これまでの情報公開訴訟においての市民側原告の勝訴率の高さを見るに、政府の情報開示に関する姿勢が常に的確なものであるという信用を持つことはできない。特定秘密保護法が政府にとって都合の悪い情報をさらに強固に秘密化することは明らかだ。
秘密を取り扱う業務の従事者に対して行われる「適性評価」も、「精神疾患」「飲酒についての節度」「信用状態その他の経済的な状況」など、極めて個人的な幅広い情報を調査し、しかも対象者の「家族及び同居人の氏名、生年月日、国籍及び住所」も調査対象として、関係者に調査・照会もするとあっては、制度そのものがまさにプライバシーを多大に侵害するものある。また、収集された膨大な個人情報が外部に漏洩した場合、取り返しのつかない人権侵害が生じるのは明らかだ。そして集めた個人情報の「目的外での利用及び提供を禁止する」とあるが、実効性は期待できない。むしろこの条項が恣意的に利用され、さらなる情報隠しが進められる懸念が拭えない。
罰則については、過失による情報漏洩でも最大10年の懲役刑とされるおそれがあり、また公益通報のような正当な内部告発も「故意の漏洩」と認定され、処罰されるおそれもある。情報を取得するための「未遂、共謀、教唆、扇動」を処罰するということは、正当な取材活動が「情報漏洩の教唆」と認定されて処罰される危険性をはらんでいる。
この法案によって公務員などが過度に萎縮して情報公開が著しく損なわれ、ドキュメンタリーを始め社会問題を扱う作品の取材活動は阻害され、市民の知る権利に重大な影響が及ぶことになる。また、「秘密」にアクセスする国民やメディアの活動も重罪の対象となるため、政治や軍部の闇、「秘密」に切り込む映画、演劇などの制作・公開・上演が行われなくなるおそれがある。
映画や演劇の活動は表現を通じて人々の注意や関心、問題意識や感動を喚起し、想像力に訴え考える機会を創り出す作業だ。こうした活動は人々の暮らしを豊かにし、より良い社会を作ることに貢献してきたと私たちは自負している。情報を秘匿し、行政に対するアンチテーゼを許さず、市民が考えることを阻害する社会の仕組みが辿る末路は、71年あまり前の第二次大戦での惨禍で確認したものであり、先の原発事故での情報開示の遅れによる放射能恐怖でも確認したはずである。
同じ過ちを幾度も繰り返すわけにはいかない。いま必要なことは、軍事を理由とした「情報隠蔽」ではなく、むしろ「情報公開の促進」である。私たち映演労連は「特定秘密保護法案」に強く反対し、この制度の問題をあらゆる活動を通じて広く働きかけ、「特定秘密保護法案」の制定を阻止するために尽力することをここに決議する。
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